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理由は伏せたまま
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専務室に戻りながら、吾久へと電話を掛ける。
専務室に足を踏み入れたタイミングで、吾久が電話を取った。
「“白糸 霙”、売ってくれないか?」
開口一番の俺の言葉に、吾久が電話の向こうで、疑問符を浮かべる。
「うちから貸したヤツ? ……8番か。…壊した?」
別に1体くらい壊されようと、どうってことないとでも言いたげに、吾久は、あっさりとした口調で問うてくる。
どさっと、革張りのオフィスチェアに腰を据えた。
「いや」
否定を紡ぐ俺に、吾久はくくっと詰まるような笑い声を立てた。
「ってことは、お前も餌食になった?」
すげぇだろ…? と、吾久は可笑しそうに言葉を紡ぐ。
揶揄うような音を含む声に、俺は疲れ混じりの息を吐いた。
「手は出してない……」
一瞬、霙は俺の[運命の番]だと、吾久にバラしてしまおうかとも思ったが、そんなことを言えば、タダでやると言いかねない。
吾久に、…暗城家に、変な借りを作りたくもなかった。
「まぁ、いいけど」
霙を欲しがる理由を語ろうとしない俺に、吾久は、詮索を早々に打ち切った。
「いくら払えばいい?」
率直な俺の問い掛けに、吾久は、軽い逡巡の後に口を開いた。
「1本かな。あと、アレちょうだい」
「あれ?」
さらっと放たれたアレという指示語が、何を示しているのか解らず、俺は眉根を寄せる。
「スカーフだよ。あの、フェロモン抑えるヤツ」
吾久が言いたいのは、【防散スカーフ】だろうと察した。
「……人形にでも着けるのか? 何枚、欲しいんだ?」
吾久と話ながら、俺は机の上のタブレットを手繰り寄せる。
まだ試作段階の【防散スカーフ】は、そこまで沢山の在庫は抱えていない。
寄越せと言われた枚数が足りない可能性を考えた。
「1枚」
「1枚?」
さくっと告げられる予想外の数字に、俺は鸚鵡返ししていた。
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