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嫌われていて良かったんだ
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「もしかして……?」
瞳にキラキラとした期待を添え、俺に詰め寄る妃羅。
デリカシーのない好奇心を向けてくる姿は、艶にそっくりだ。
嫁に行った妃羅は、どうやら艶の鬱陶しいところが伝染してしまったようで、軽く頭を抱える。
「そうだ。霙は俺の運命の相手だ」
言った瞬間に妃羅は、きゃーっと小さな黄色い声を上げた。
口許を両手で覆い、感動に打ち震えるように、瞳を潤ませた。
「やっと出会えたのね」
零れんばかりの笑顔で、嬉しそうに紡がれる言葉に、胸がきりりと痛む。
「あっ、挨拶に行かなきゃっ。いつ番になるの?」
キラキラと瞳を輝かせながら問うてくる妃羅に、俺は視線を背けた。
「番になるつもりはない」
吐き捨てるように放った声に、妃羅の表情から煌めく色が削ぎ落とされた。
「え? どうして?」
運命に定められた相手なのに、番の契りを交わさないという俺に、妃羅は詰め寄る。
「霙は、俺が嫌いだから。番にはならない」
αの俺は、簡単にΩのフェロモンに翻弄される。
だけど、αが発するフェロモンは微々たるものだ。
触れれば惹かれるものがあるかもしれないが、心の奥底に蔓延る霙のαへの嫌悪があっさりと解消されるとは思えなかった。
それに。
革の手袋の中に隠された汚れた手に、黒く淀んだ空気が俺を包む。
「嫌いって何? 兄さん、何したの?」
責めるような、不安げな瞳を向ける妃羅に、俺は空笑う。
「俺は何もしてない。ただ、霙はαが嫌いなんだ」
手袋の嵌まる手を、きゅっと握った。
嫌われていて良かったとさえ思った。
こんな穢い手で、霙の触れなくて済むのなら……。
「霙が悪い訳じゃない。俺は、霙が幸せなら、それでいい」
しょんぼりと肩を落とす妃羅を部屋から出し、艶が寄越した書類に瞳を落とした。
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