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最上級の愛だろう?
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「俺と霙を天秤にかけろ」
専務室に通されたオレに掛けられた帝斗の第一声。
帝斗の言葉に、オレは首を傾げた。
「お前が選んだ方だけが生き残るとしたら、お前はどっちを取る? そこに俺の力は及ばない。霙を選んだとしても、俺に何かされる心配はない」
帝斗は、専務室の大きな革張りの椅子に身体を沈め、どうする? と瞳で問うてくる。
……オレには、どちらも選べない。
「無理です」
オレの返答に、帝斗は瞳に疑問符を浮かべた。
「オレの選択は、帝斗さん一択です。でも、帝斗さんが、霙さんを救えというなら、オレは帝斗さんを見捨て、霙さんを選択します」
帝斗さんは、天秤の上に乗るコトすらない。
言い切るオレに、帝斗がうっそりとした笑みを浮かべた。
「お前は霙を好きか?」
オレの挙動すべてを見逃すまいとする鋭い帝斗の視線が、突き刺さる。
「……好きとか、わかんないです」
オレは、人を恋しいと思ったコトがない。
たぶん、感情の中の“恋愛”という領域が欠落している。
帝斗に対して、憧れの感情は持っているが、ドキドキとする胸の高鳴りとは、…恋の高揚感というには違和を感じる。
頭を撫でられたり、かまわれたりするのは、素直に嬉しい。
だけど、独り占めしたいとも思わないし、帝斗がオレのものになり、愛を育めと言われてもピンと来ない。
慕っているコトが、…ただ、眺めているだけで、幸せなのだ。
「俺のコトは、どう思ってるんだ?」
オレの“わからない”という返答に、帝斗は眉根を寄せた。
「尊敬してますっ」
食い気味に紡いだオレの言葉に、帝斗が、ははっと小さく笑う。
「敬愛はわかっても恋情はわからないといったところか…」
机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せた帝斗は、緩やかに瞳を動かし、オレを見やる。
「オレは人を愛せない欠陥品、なんです」
情けない顔で繕った笑みを浮かべたオレを、帝斗は鼻であしらった。
「お前は何も欠けてない。その想いは、…お前の俺への感情は、最上級の愛だ」
くいっと上がる片方の口角は、満更でもないと物語る。
オレの敬愛は、帝斗に優越を与える。
「お前はまだ、恋しいと思える相手に出会っていないだけに過ぎない。霙がそういう対象になったら、…霙のコトを好きだと思えたら、俺から奪い取ればいい」
出来るものならやってみろと言わんばかりの帝斗の言葉に、オレの心から動揺が溢れる。
「う、奪う? ……奪うとか、考えられないです。オレは、霙さんのコト、大事にしたいと思います。でもそれは、オレの意思じゃなくて。帝斗さんの、貴方の大切なものだからで……っ」
焦るオレに、帝斗は声高に笑った。
帝斗の笑い声が収まり、部屋が静寂に包まれる。
「……オレ、“処分”ですか? リ、“リサイクル”…ですか?」
無音の空間に堪えきれず、ぼそりと疑問を呈した。
「このままだ」
すっぱりと言い切られた言葉に、オレはきょとんとした瞳を向ける。
「今までのまま、霙の世話を続けてもらう」
帝斗の大事なものに手を出したのに。
そんなオレに、なんの制裁も無い……?
「あいつが辛そうなら、抱いて構わない。霙を傷つけなければ、俺は何も言わない」
その判断に、ぽかんと帝斗を見やっていた。
帝斗は、机の上で組んだままの手に視線を据え、言葉を紡ぐ。
「ただ。あいつに傷…、痕ひとつでも残したら、処分する」
するりと滑った帝斗の瞳は、殺意に冷たく凍る。
ただ視線を向けられただけなのに、オレの背には冷たい汗が流れ落ちた。
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