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簡単に奪い取れるもの
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意を決したように僕へと戻した視線に、妃羅が口を開く。
「……、なんで兄さんが、…αが嫌いか聞いていい?」
聞きにくそうに言葉を紡ぐ妃羅に、僕は小さく息を吐く。
「僕はβとΩの間に出来た子供で、Ωの母は、僕が小さい頃にαの男と消えた」
母をαに拐われたから、僕はαを好きにはならない。
「αに魅了された母は、僕を捨てた……。僕から母を奪ったαが憎いんだ」
きゅっと眉根を寄せ、顔を歪ませる僕に、妃羅は、んーと困惑の音を放った。
「……兄さんに、心惹かれなかった?」
困り顔のままに、首を傾げる妃羅。
僕も同じような顔つきのままに口を開く。
「わからないんだ。確かに、会って、話して、…好きかもしれないと思った。…だけど、独り身のαに初めて会って、僕の血が…、Ωの本能が触発されただけなんじゃないかって」
発情している僕を目の前にしても、欲情の兆しも見せなかった帝斗の姿が、脳裏に浮かぶ。
「だって、おかしいだろ? [運命の番]を目の前にしても、帝斗は落ち着き払ってたんだ。普通なら、もっと取り乱しそうなものだろ?」
妃羅に訴えたところで、何かが改善するわけでも、問題が解消するわけでもない。
わかっているのに、ぶつけずにはいられない。
解せない疑問が、胸で燻る。
「マスク、してなかった?」
妃羅は、両手で口許にマスクのような四角を作る。
確かに、マスクをしていた。
でも、それがなんだというのだろう。
「してたよ」
僕の言葉に、妃羅は納得したように数度、頷く。
「あれ、Ωのフェロモンを遮断するものなの。それに、多分だけど、鎮静剤も服用してると思う」
[運命の番]だというのなら、そんな防壁など必要はない。
僕の意思など関係なく、頸に牙を立てればいい。
番にしてしまえば、僕は無条件に帝斗に心を奪われる。
僕の心など簡単に毟り取り、自分のものに出来るのに。
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