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僕の手は放たれた
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専務室を訪れ、ノックする。
扉を開けて、一歩足を踏み入れた僕に帝斗の怒号が響いた。
「寄るなっ」
帝斗の荒んだ声に驚き、足が止まった。
部屋の奥に置かれている革張りのソファーに座ったままの帝斗は、マスクの上からでもわかるほどに顔を歪めていた。
「……っ、悪い。なんだ?」
マスクの鼻筋に掛かる部分を指先で押さえた帝斗は、僕から視線を外す。
「ぁ、えっと……、薬が効いたんだ。あの抑制剤」
再び、専務室に足を踏み入れようとする僕に、帝斗の苛立った声が飛んでくる。
「来るなっ……」
キッと僕を睨むような瞳を向けた帝斗は、何かを払うに、頭を振るった。
寄るな、来るな、と言われてしまえば、僕はこの場を動けない。
「体調でも、悪い? 誰か呼ぶ?」
僕の問いかけに、帝斗は、何でもないと吐き捨て、言葉を繋いだ。
「直ぐに追加分を持っていかせる。薬が効いたのなら、食堂でご飯を食べてかまわないし、出掛けたいのなら、出掛けてもかまわない」
ふうっと吐かれた帝斗の息が、怠さを伴っている気がした。
心配に憂いの瞳を向ける僕に、ちらりと向けられる帝斗の視線は、鬱陶しそうに直ぐに逸らされる。
嫌がられている……?
「どこかに出掛けるときは、一言告げてくれればいい」
帝斗は、僕を追い払おうとしている。
駒野は、もう僕からフェロモンを感じないと言っていた。
性欲を煽られる心配もないのに、なんで僕を遠ざけようとするのだろう。
……フェロモンが落ち着いた僕に、もう興味はなくて。
ただ、鬱陶しい存在へと、なってしまったのかもしれない。
駒野が言うように、喜んでくれるのだと思っていた。
僕が会いに来れば、帝斗は喜んで迎えてくれるのだと、疑わなかった。
……思い上がりも、いいところだ。
駒野と身体の関係を持った。
駒野とのコトがなくたって、僕は山ほど男と関係を持っている。
発情期に狂わされていたとしたって、簡単に身体を許す自分に、帝斗は嫌悪を示している。
『運命の相手だからと、無理をして俺を好きになる必要はない』
それは、帝斗自身への言葉だったのかもしれない。
僕を無理に好きになる必要はない、と。
自分は、こんなだらしない人間を好きにはならない、と。
僕は、帝斗に見放された……。
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