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掴めない現状
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霙を避け始めて、数週間の時が過ぎていた。
妃羅に、霙と出掛けると告げられた。
俺は出掛けようとしている霙を呼び止めた。
駒野の話によれば、霙のフェロモンは、皆無に等しい。
[運命の番]である俺でなければ感じ取れないほどの、ほんの些細なもの。
それでも。
「念の為だ……」
言葉を放ち、俺は霙の首に若草色の【防散スカーフ】を回し、ネクタイを締めるようにきゅっと絞る。
霙は、不思議そうにそれを見やっていた。
きょとんとしている霙に、妃羅が口を開いた。
「【防散スカーフ】だよ。私たちのフェロモンが周りに飛散しないようにっていうスカーフなの。抑制剤の治験だったから、してなかったもんね」
霙の姿を正面から覗き込んだ妃羅は、似合う似合うと嬉しそうに微笑んだ。
霙のために開発した抑制剤を飲ませており、その効果を図るために、【防散スカーフ】は着けさせていなかった。
楽しそうな妃羅とは対照的な温度で、俺は言葉を紡ぐ。
「抑制剤は飲んでるな? これで好きなものを買ってくるといい」
会社で所有しているスマートフォンにカード情報を入れたものを霙へと差し出した。
「わーいっ」
嬉しそうな声を上げた妃羅が、スマートフォンへと手を伸ばす。
「お前のじゃない。お前のは自分の携帯にカードが入っているだろ。それで買ってこい」
妃羅の手を避けスマートフォンを、霙の胸へと押し当てた。
霙は、渋々といった様子でそのスマートフォンを手にし、妃羅と出掛けて行った。
3時間ほどが経ったあと、俺の目の前に現れたのは、妃羅と…艶。
俺は、艶の姿に眉根を寄せた。
艶の後ろに隠れるように専務室に足を踏み入れた妃羅の瞳は涙に濡れ、真っ赤に染まっていた。
「兄さん……、ごめんなさい。私が、…私がっ」
泣きながら紡がれる妃羅の言葉は、要領を得ない。
「妃羅は悪くないでしょ。霙ちゃんが落ち込んでると思ったから、気晴らしに連れ出しただけでしょ」
ぐずぐずと鼻を啜る妃羅に、艶は慰めるようにその頭を撫でた。
「悪い。状況が掴めない。何が起きたのか、説明してもらえないか?」
訝しげに眉を潜め、事の顛末を問う俺に、艶と妃羅は連れ立って応接用のソファーに腰を据えた。
俺も話を聞こうと、正面のソファーへと移動する。
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