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誰が見たって
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翠之の母親が霙を暗城に売り払ったコトは、艶の報告書で知っていた。
でも、翠之自身が、霙を売った訳じゃない。
翠之の手は、汚れていない。
一緒に居た期間、翠之は霙1人を愛していたはずだ。
それに比べ……。
俺の手は、数多の血で汚れている。
人を殺め、売り捌き、実験材料にしていた。
それに、何人もをこの腕に抱いてきた。
どちらが綺麗か。
どちらが霙に相応しいか。
誰が見たって、………俺じゃない。
「霙は自分の意思でついて行ったんだろ? 俺が出張る必要はない」
すっぱりと言い切る俺に、数秒の沈黙が、影を落とす。
動こうとしない俺に、艶が苛立った声を紡いだ。
「なんで番にしてやらなかったの?」
叱るような声色に、俺は苛立ちのまま、鋭い瞳で艶を見やる。
「なんで、霙ちゃんがついて行ったか…、あんたから離れたかわかる? 少しは、霙ちゃんの気持ちも考えてあげなよ」
世話の妬ける男だとでも言いたげに、艶の声は呆れを纏う。
「引くコトだけが、最良じゃない。私は、妃羅を想って待ってたけど……。あんたは、待ち過ぎだし、手ぇ出さな過ぎ」
小馬鹿にするように放たれる艶の声。
暗に探してやれと食い下がってくる艶に、苛立ちが募った。
「俺のこの穢ぇ手で、霙に触れって言うのか?」
人を大切にしたことなんてない。
邪魔なものは、処分してきた。
使えるものは、利用してきた。
じろりと睨みつける俺に、艶が臆するコトはない。
「あんたの手は穢(けが)れたりしてないよ。大事なものを守るために、少しだけ汚れただけ。汚れなんて洗えば落ちるでしょ」
ふんっと、当たり前のコトを言わせるなと鼻であしらった艶は、言葉を繋ぐ。
「あんた言ったよね? お前が汚れる必要はないって。罪悪感や背徳感を背負う必要ないって。自分はそんなもの感じないって」
自分の言葉を責任を持てと、苛立ちに刺々しい声を放つ艶。
解せない感情に、艶の声は荒々しさを増した。
「感じてんじゃん。背負ってるじゃんっ」
艶は俺を睨み返し、畳み掛けてくる。
「私の代わりに罪悪感、背負ってどうすんの。そんなの、私は微塵も嬉しくないから」
自分の言葉の勢いに、苛立っているコトが嫌になったというように、艶は頭を振るった。
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