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それは、通すべきエゴ
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動きを止めた艶の視線が、再び俺を刺す。
「自分のこの手を汚しても守りたいものがあるって、幸せなコトじゃん。汚れずに済むならそれに越したことはないけど、私の代わりや、妃羅のためにやったコトで、汚れたって思ってるなら、それは違う」
諭すように放たれ続ける艶の声に、俺は黙って叱られ続けた。
「あんたは、本当にバカだね。危険なものから、穢いものから、遠ざけるコトだけが守るってコトじゃない。自分が穢いからって、遠ざけてどうするの?」
問いかけられる言葉にも、俺は返答を紡げない。
真っ当な正論を正面から叩きつけられ、俺が臆する空気が充満する。
「穢くったって、卑しくたって、そんなの関係ない。だって霙ちゃんが欲しいのは、あんたの温もりなんだから。[運命の番]からの愛なんだよっ」
紡ぎ続けられる艶の言葉は、お前は愛を知らないんだから学べと叱咤する。
「運命の相手に避けられるコトの辛さをあんたは知らない。自分を守ることばっか。フラれるの怖くて逃げてるだけじゃん。傷つきたくないからって、逃げんじゃないっつーのっ」
艶は、運命の相手を見つけたのに、番にはできなかった。
傷つけられ憔悴しきった大事な存在を、傍には居られなくとも守ろうと、手放した。
手放し離れることが愛だ、と。
愛のかたちは、それぞれだ。
俺はこの汚れた手で、霙に触れないコトが愛だと思った。
でも。
拒まれるコトが怖くて、逃げていた…だけなのか。
「自分の腕の中に閉じ込めるコトも、守るってコトなんだよ。そこは通すべきエゴなの」
ふんっと鼻息荒く言い放つ艶に、心が揺らぐ。
俺は、霙を取り返しに行くべきなのか、と。
霙の幸せを考えれば、そっと見守っておくべきなのかもしれない。
でも、愛する者をこの腕の中に抱え込みたいを思うのは、当たり前の所有欲。
艶に言わせれば、それは通すべきエゴで。
俺の気持ちを、俺の想いを、ぶつけるコトは間違っていないと背中を押す。
「行くだけいけば? 霙ちゃんが、あんたなんか要らないっていうなら、諦めればいいコトでしょ」
ま、勢いがついたら諦めるなんて選択肢なくなると思うけど…、と艶は、鼻で笑った。
―― ピコンっ
ひりつく空間を壊すように、メールの着信音が部屋に響いた。
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