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父の秘密の尻尾
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霙の就職先がなかなか決まらなかったのは、オレが裏から手を回していたからだ。
αやβ、…男が居そうな職場は、排除した。
霙が花屋で働き始め、オレは大学進学を目指していた高校3年の夏。
父の書斎から漏れ聞こえた声に耳をそばだてた。
「100だ。何時ものように振り込んでおけ」
冷たく放たれる父の声に、私設秘書に当たる若い男が言葉を返す。
「会っては、あげないんですか?」
心配するような、悲しげな音の混ざる秘書の声色に、父は切り捨てるように一言だけを放つ。
「必要ない」
すっぱりと切られたはずなのに、秘書の男は、食い下がっていた。
「一度だけでいいと。会ってくれれば、金など……」
「うるさいっ」
諦め悪く口を噤まない秘書に、父の怒声が響いた。
「お前は言われたことだけやってればいいんだっ」
口答えするなと怒鳴る父に、肩を落とした若い秘書が書斎から出てきた。
姿を表した若い秘書と視線が交差した。
気まずそうに瞳を逸らす秘書。
オレは、ゆったりと秘書の側へと寄り、耳許で囁き問うた。
「100って何?」
動揺に秘書の瞳が、左右に揺れる。
「翠之さまが気にするコトではありませんよ」
横から刺さり込んできた声は、古参の秘書のものだった。
この古参の秘書は、父が幼い頃は、園崎家の執事として仕えていた。
歳を取った自分に代わり、父を支えていく人材をと若い秘書の教育に精を出していた。
古参の秘書から、嗅ぎ慣れない匂いが薫った。
βであるはずの秘書から薫った匂いは、αのそれだ。
すっと腕を伸ばした古参の秘書は、動揺に浮わつく若い秘書の肩に手を回し、外へと促した。
緩やかにオレに頭を下げた古参の秘書も、後を追う。
「翠聡さまに楯突くなど、なにをしてるんですか。翠之さまにも余計なご心労を掛けるなど言語道断ですよ」
若い秘書を叱咤するように放たれた声の後、私に任せておきなさいと小さく紡がれた音もオレの耳は拾っていた。
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