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オレは凡庸な狐だ
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オレの瞳は、慌て霙の姿を探す。
「いないわよ。あのコは処分したわ」
淡々と言葉を紡ぎ、冷めた瞳を向ける母に、オレは固まる。
「Ωはそれなりの高値がつくのね」
汚いものでも掴むように指先で摘まみ上げたそれは、札束だ。
霙を売った金であろうコトは、察しがつく。
母は、手にしていた札束を、無造作に床へと放った。
「こんな薄汚いお金なんて要らないけど……」
床に散らばった札を足先で払う母。
苛立ちと、悔しさに顔が歪む。
「あんな卑しいΩに現を抜かすなんて……」
呆れた声を放った母は、困った子だと言わんばかりに顔を顰めオレを見やる。
「翠聡さんにバレたら、捨てられてしまうのよ。あの人に見放されたら、どうするのっ」
ふんっと鼻息荒く、オレを諭そうとする母。
母は、俺が霙に…Ωに誑かされたから、自分も父親に軽くあしらわれているのだと解釈していた。
違う。
霙は、そもそも関係ない。
問題は、あいつにある。
あいつが最初に母を裏切り、Ωとの間に子供をもうけたコトが、始まりだ。
「いい加減気づけよっ。あんたは親父に裏切られたんだよっ。俺たちはとっくの昔に見捨てられてんだよ」
オレが誰とどんな恋愛をしようと、将来の見通しが立たず投げ遣りになろうと、あいつには微塵も関係のないコトなんだ。
オレは、とっくの昔に見限られている。
今さら足掻いたところで、何が変わるというんだ。
「Ωとの間にαの息子がいるんだよっ。βの俺なんて必要ねぇんだよっ」
αに近いβ……、そんなもの存在しない。
俺は、虎の威を借る狐そのもの。
虎の威を剥ぎ取られてしまえば、その辺にいる凡庸な狐でしかない。
嘘だと放った母は、狂ったような奇声を発した。
そんな訳ないと、否定の言葉を連ねた。
それを片っ端から捻り潰していくオレに、母は観念し、途方にくれた。
父の不貞に精神を病んだ母は、心を壊して入院した。
狂った母親は、暗城の名を吐いてくれなかった。
暗城家へ売ったのだとわかったのは、最近だ。
買い戻そうと動いた時、霙は既に居なくなっていた。
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