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昂らない感覚
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「逃げて、…ないよ」
そわそわと浮き足立つ僕は、小さく頭を振るい、翠之の唇へと口づけた。
「少し、驚いただけ……」
僕の嗅覚は、違う匂いを欲していた……。
僕からキスをしたクセに、心の端が痛みを伴い、じりりと焼け焦げた。
焦げついた部分から、じりじりと冷たく凍りついていく。
苛立たしげに視線を外し、壁を睨みつけた翠之は、乱雑に靴を脱ぎ捨て、玄関を上がる。
僕の腕を掴み、中へと足を進めた。
翠之に習うように靴から足を抜き、引かれるままに、室内へと進んでいく。
抑制剤が蔓延した身体は、目の前の雄に反応しない。
本能が、目の前の存在を拒んでいた。
この体温に、この雰囲気にあの頃は、興奮していたのに。
あの頃の昂りは、なんだったのかと疑いたくなるほどに、僕の気持ちも身体も、高揚しない……。
ぐんっと荒く引かれた腕にバランスを崩した僕は、床に引きずり倒された。
「ぃっ………」
強かに床へと打ちつけられた背に、息が詰まる。
腹の上に馬乗りになった翠之は、苛立ちと悲壮が混ざり合う瞳で僕を見下ろす。
噛みつくように降ってくる翠之の唇。
にゅるりと口腔内へと挿り込んでくる舌に、僕は逃げられない頭を床へと擦りつける。
見つけてしまった運命に、僕の本能は代替の翠之を拒絶していた。
僕は、恋を知らなかった。
翠之との日々は、恋愛とは無縁の産物だった。
あれは、本能に支配された単なる繁殖行動で。
ただ楽になりたい身体が求めた雄。
違ったんだ……。
翠之への好きだという感情は、紛い物だった……。
ねっとりと口腔内を這う翠之の舌が淫靡な空気を煽るのに、僕の身体は震えた。
這いずる翠之の舌に、鳥肌が立つ。
興奮に粟立つ感覚ではなく、身体を暴かれる恐怖に、背が寒くなる。
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