アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
73
-
『校門前についたよ』
きたる次の日の放課後。
和樹さんと合流して職員室へ向かう。
「予め来ることは電話しといたよ」
職員室へ着くと藤木先生に案内されて、部屋へ向かう。
「今日は急がしい中、ご足労ありがとうございます。…ところで話と言うのは」
「はい。実は祐の方から先生とご兄弟という話をうかがいまして」
「なるほど、確かに兄弟とは言いました。橋谷さんは保護者と聞いていますが、どういった経緯で?」
「俺が推薦しました」
俺が答えた。
「ほぉ」
「一人暮らしはとても不安だったので、短い期間だけでも面倒を見てくれる人を探したんです。それが和樹さんです」
(頼むから話を合わせてくれ…)
ネットで知り合ったなんて言ったら絶対に反対される。
「それで、本題に入りますと、ご兄弟ということは勿論ご家族がいらっしゃるんですよね?」
「………正直にはなしてもよろしいですか」
控えめに問う。
「はい」
「母は祐が小学校に上がる頃に事故で亡くなりました」
「え……」
まさか死んでいるとは思わなかった。
「父はその日から、優しかった面影も残さず、毎晩お酒を飲んでは俺たちに当たっていました」
「………」
「……祐は特に酷かったんです。俺は当時中学生だったから帰りも遅くて…」
昔の記憶を探るように話し始める。
「つまり虐待を受けていたんです。俺達兄弟は」
すると和樹さんが心当たりがアあると言ったように口を開いた。
「あ……もしかして祐の背中……」
「……はい…」
背中?背中がどうしたというのか。
「そんな生活が3年ほど続いたある日、俺は高校を卒業して就職しました。一刻も早く祐を父からの暴力から救ってあげたかった」
強く握りすぎた藤木先生の手は赤くなっていた。
「それでも3年。子供の俺にはなにもすることができなくて、家から二人で出て、上京しました」
「元は…元は何処に住んでいたんですか?」
うっかり素直に質問すると
「北海道。母は雪でスリップした車に轢かれたんだ」
「でもその時期は現地の人ならちゃんとタイヤも変えてるはずでは?」
確かに和樹さんの言う通りだ。
「旅行だったらしいんです。東京から東北を中心に回って北海道に来ていたらしくて。まだ冬も本場に入っていなかったから、雪が降るとは思わなかったなんて理由で」
「……すみません。辛いことを思い出させてしまいました」
「いえ、大丈夫です。東京についた後は物件を探しました。仕事はちゃんと東京で見つけていたので大丈夫でした。物件を見つけて、やっと生活が落ち着いてきたって時に祐が…行方不明になったんです」
「俺が行方不明……?」
どういうことだろうか。自分が目覚めたのはベットの上だ。その前に行方不明でさまよっていたのだと言うのか。
「ある日仕事から帰って来て電気がついていないことに気づきました。家の中を探し回っても祐が居なくて、すぐに警察に連絡しました」
「………」
「1年、2年と月日は流れていくのに、祐は一向に見つからない。そしてついに、6年たったある日、死亡宣言がでました。」
「………つまり…俺は見つからなかったから死亡したとみて処理された、ってこと…?」
「……」
黙って頷く。
「納得いきませんでした。もっと探してくれ、たった一人の家族なんだって言い張ったんです。でももう死んでるものはどうにもできないって追い払われて…」
「……じゃあなんで俺は…病院のベットの上に…」
「目覚めたのはいつ?」
確か丁度半年ほど前だ。和樹さんと暮らし始めたのは目覚めて1ヶ月たった頃だったと思う。
「半年くらい前かな?死亡宣言が出たのは多分俺が丁度中学3年の時……つまり去年……」
「……とりあえず、今は祐を私が預かってもよろしいですか?今まで祐を家族のように大事にしてきました。あとは先生、いえ、お兄さんが決めて構いません」
暫く考えた後、藤木先生が承諾した。
「わかりました。私も考えがまとまってから御報告させていただきます。お電話か今日のように直接か、どうなさいますか?」
「では直接でお願いします」
そのやり取りを黙って聞く。
「では失礼します」
「今日はありがとうございました」
そうして校門を出た。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 187