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「ゆーうー。迎えにきーたよ。大丈夫?」
「えっ」
一時間ほど経ち、そろそろ戻ろうかと迷っていると、和樹さんが迎えにきた。
「な、なんで……?」
「ごめんなさいね。私が連絡しちゃったのよ」
申し訳なさそうに眉尻を下げて謝る。
「いえ、助かりましたよ。どうせ今日は早退する予定でしたので」
「あら、そうなんですか?」
イケメンを目の前に、ほんのり頬を染めている。
「ご迷惑お掛けしました」
「いえいえ。重症ではないので良かったです」
「では失礼します」
「はい。草薙さんもお大事にね」
「ありがとうございました」
手を振られたので、お辞儀をして保健室をあとにする。
「なんで早退にしたんですか?」
教室に荷物を取りに向かいながら問う。
「今日は風哉の命日だよ」
そっかと思い出す。
(和樹さんの誕生日の次の日に自殺したって言ってたな)
教室のドアを開けると、丁度休み時間だったため、生徒が各々過ごしていた。
「祐。大丈夫だった?」
「うん。ありがと、奈緒」
和樹さんに教室のドアの前で待ってもらうよう言うと、あっという間に女子に囲まれた。
「草薙!だれこの人!」
「あー……保護者?」
「え、若くない?」
「血は繋がってないよ」
そういうと察したらしい。
「ねーねー!彼女いますか?」
「んー」
支度をしている俺を横目でちらっと見ながら考えるふりをする。
「いるよ」
「なーんだ居るのかー」
「可愛いですか?」
またまた横目で俺を見ると、にっこり営業スマイルでこう答えた。
「すっごく可愛いよ」
女子からキャーっと歓声が上がる。
「どんなところが好きなんですか?」
「えーっとねー」
本気で答えようとしている和樹さんに耐えきれず、割り込む。
「はぁ…帰りますよ和樹さん」
「なになに、草薙嫉妬?」
「違うってば!」
「あやしー」
いじられながらもなんとか女子軍を潜り抜けて駐車場へ向かった。
「祐ー!また明日なー!」
「あとで話聞かせてよー!」
「うん!明日!」
二人に手を振って別れる。
車に乗り込んで風哉さんのお墓がある場所へ向かう。
「ねーねー祐。さっき嫉妬したの?」
「違います」
「ほんとにー?」
にやにやとしながら質問される。
「ほら!それよりもですよ。前ちゃんとみてください」
「はいはーい」
少しだけ高速道路に乗り、一時間ほど走らせる。
「着いたよ」
都内にしては、緑が少し多い場所だった。
「ここ」
そういって指を指した場所には、立派な墓石があった。
ついさっき来た人が居たのか、お花とお線香が供えられていて、お水も新しく入っていた。
「もう10年も前の事だなんてね。あっという間だ」
そういってしゃがむ。
「新しい恋人。去年は連れてこれなかったからな」
俺の手を引いて側に寄せる。
手に持っていた、手作りの弁当をそこに広げる。
「祐も一緒に食べよう」
頷いてしゃがむ。
そこからは、和樹さんが俺との思い出を語った。
俺は和樹さんのいいところを語り、和樹さんは恥ずかしがった。
あっという間にお弁当もなくなり、最後にお線香を供えると、手を合わせて二人でそれぞれ、心のなかで風哉さんに語った。
(風哉さんみたいになれないけど、俺は和樹さんの心の支えになれるように頑張ります。)
そう心のなかで伝え、墓地を後にする。
「昨日はごめんね。あの日はどうしてもだめになっちゃうんだ」
そういって謝る。
「大丈夫です。俺が心の支えになれればそれでいいから」
冬も本場に入る12月19日。この日の夜、東京で初雪が降った。
観測史上数十年振りの大雪となり、都内が白い雪で覆われた。
気温はマイナスを下回り、一段と冷え込む夜となった。
記憶を失った高校生と、過去に最愛の人を失くした、三十路手前の大人。
傷だらけの二人の物語はまだまだ終わりを見せない。
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