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今日からカウンセリングに週一回通うことになった。
目の前で恋人が轢かれて、精神的に追い詰められていることはまず当たり前だろうとお兄ちゃんが提案したのだった。
電車で30分。学校に行っていない分、平日の昼間に乗る電車は新鮮だった。
「失礼します…」
カウンセリングの先生は自宅で話をしているようだった。
和樹さんの家よりかは小さいが、十分立派な家だった。
「草薙祐くん、であってる?」
優しそうな若い女性だった。
髪の毛は黒髪でサラサラだ。
「今日からカウンセリングをつとめる岩永です。よろしくね」
そういって手を出してきたので握手しておいた。
「それで、どんなことがあったの?」
机につくと、香りの良い紅茶と、クッキーを出される。
「……恋人が交通事故にあって……」
細かなことを包み隠さず話した。
「なるほどね」
大体把握したようだ。
「祐くんがショックを受けたのは恋人が交通事故にあったから?それとも記憶を失ったから?」
「…どっちもです」
思い出している時間さえも辛い。
「辛いことを思い出させてごめんね。祐くんは恋人が交通事故にあってどう思ったの?」
「苦しい…です……助かったって光が見えた気がしたのに記憶喪失って言われて……グス……ッ……突き落とされた気がして…ッ…」
そっとティッシュを渡してくれた。
「それは辛かったね……でもね。きっと轢かれたのは祐くんのせいじゃないよ」
誠も同じ事を言っていたなと思い出す。
「祐くんは小さい子を助けた。それだけで誇れることなんだよ。ただあの時あの時間、あの場所で二人で居たことが悪かった訳じゃない。誰のせいでもないんだよ」
「………」
「人の記憶はね。脳だけに残るものじゃないんだ。心とか体にも残るの」
言っていることがあまりわからなくて首を傾げる。
「例えば、お風呂場で体を洗う順番。何も考えなくても手が動くでしょ?」
確かに、と手を見る。
「そういうのと一緒。その恋人はきっと祐くんと手を繋ぐ感覚とか、ハグする感覚とかを覚えてる。もちろんそれを日常的にやってればの話だけれど」
「やってる?」と問われる。
「…はい…毎日抱きつかれます」
「ラブラブだねぇ~」
つんつんと指で突かれる。
恥ずかしくて下を向いた。
「だからね。きっと今も祐くんの事が好きなんじゃないかな」
(今の和樹さんが…俺を好き…?)
「何か思い出のものとかない?これ貰ったとか」
「あ…指輪貰いました」
左手の薬指を見せる。
「あとこのネックレスも」
「思い出の物にも、その人の心って宿ってたりするものだから、肌身離さず持っていたらなにか奇跡が起こるかもね」
そんな会話が続き、あっという間に三時間が過ぎた。
「今日はここまでにしておこうか。これおみあげ」
くれたのは柔らかい包みに包まれた小さめの箱だった。
「?…なんですかこれ」
「アロマのろうそく。火を見ていると落ち着けるし、香りで嫌なことも忘れられる。寝る前につけてみて」
「…ありがとうございます」
バックにしまって先生の家を後にした。
夕方の電車に揺られながら貰ったろうそくを見つめる。
(…誠にこの間の陶器のやつ借りよう)
そう思いながら電車を降りて家に向かった。
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