アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
『雪都さん』
-
____________________________
「ここは?」
電車で二駅走らせ
少し歩いた場所へ
刹を連れてやってきた。
そこは綺麗な白いバラが庭に咲いた
一軒家だった。
「俺の生まれ育った家。」
あの頃のまま
綺麗なバラは咲き続けているようだ。
「俺さ、両親が俺生んですぐ殺されたんだ。
そんなこと、赤ん坊の俺には分かんないけど。そう聞いた。
実はさこの家に来る前の俺の記憶はほとんどないんだ。
俺の記憶はここから始まってる。
緋色と出会う前まではここで暮らしてて、ここの人たちに守られてたんだ。」
唐突に切り出した話に刹は
黙って耳を傾けてくれた。
「今も、いると思うんだけど。」
玄関さきに向かうと
丁度よくその家の主が
ドアを開けた。
「……雨?
随分と久しいですね。」
その人は物腰やわらかく
金の髪を一束に纏めた
あの頃とさほど
変わりない様子で
微笑んだ。あれから5年。恐らく今は30少し越えただろうが、相変わらずの綺麗な顔立ちで。
「お久しぶりです、雪都さん。
あれから一度も連絡出来ずごめんなさい。」
「そんなの気にすることじゃありません。
元気でやってるであろうことは
わかりますからね。
その子はお友達でしょうか?
こんなところでは何ですので
さぁ、中へどうぞ。」
中へ俺たちを招きいれ、
リビングへと通した。
つい数年前までいたそこに
懐かしい気持ちでいっぱいになった。
その時二階からどたばたしたうるさい音がした。
これは…
「雪都!雨の匂いする。」
上から顔を出したのはやっぱり
「兼都(かなと)か。」
名を呼ばれた相手は
目を見開き一瞬で俺の目の前に降りた。
「雨じゃん!!元気だったかお前!!」
ばっしばし背中を叩くこの男は
雪都さんの弟の
兼都(かなと)だ。
奇抜な自分でざくざく
揃えた前髪と
一部分の赤メッシュは
健在だった。
つうかいってぇ。
そんなやり取りを刹は
少し引きぎみで見ていて、
それに気づいた兼都は
「あん?誰だてめぇ。」
………メンチきった。
「俺の仲間の刹。」
見定めるように見る兼都に
刹は眉間のシワを深くした。
「ふぅん。
仲間、ね。」
バシンッ
とても良い音がなったのは
雪都さんにはたかれた
兼都の頭だった。
「雨、刹くん。ソファーで
紅茶でもどうぞ。」
ソファーに
腰かけると
すかさず
美味しそうな
アップルパイを
雪都さんが運んでくれた。
雪都さんと兼都が向かい側に座り
俺と刹が隣に座る形になる。
「そういえば紹介がまだでしたね。
私は雪都。そしてこれが弟の兼都です。」
……なんかすげーあいつ刹に敵対心剥き出しなんですが。
「刹です。レイ……雨と一緒に暮らしてます。」
「へー」
不機嫌に声をあげるのは
言うまでもなく兼都。
なんだってんだ一体。
ふぅ、と雪都さんは溜め息を溢し財布を差し出してきた。
「兼都をつれてお使いを頼まれてはくれませんか。私のお気に入りの茶葉が切れてしまって。」
「あ、いいですよ。あれですよね?昔から飲んでた…」
「はい、今も変わらずそれが好きでして。」
めんどくさそうな顔でこちらをみる兼都の腕を引き立たせた。
「刹君には手伝って欲しいことがあるのですが、宜しいでしょうか。」
雪都さんの微笑みにつられ
刹も顔を綻ばせ
「勿論です」と答えた。
______________________________
「それで、何を手伝えば…」
「あぁ、いえ。特にありません。ただ、君に聞きたいことがあって。」
レイたちが去った後
雪都さんは少し笑顔が曇ったように見えた。
「聞きたいこと…」
「雨が緋色に連れられここを
出てから、5年は経ちました。それから一度も、彼はここへ訪れたりはしてません。
私も勿論ここへ来るなんてことは
ないと思ってました。それなのに今日、どうして突然ここへ来たのだろうと思いまして。」
「…それは僕には分かりません。」
ふむ、と何か考えるように顎に手をやる
雪都さんに僕は不安に駈られていた。
「雨のこと聞いてもいいですか?」
「それについては、話しておいた方がいいと思っていました。
………貴方ならきっと、力にもなってくれるでしょう。」
雪都さんの笑みの消えた表情から
これから話されるであろう内容の重さを
感じ取れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 78