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六時間目
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ひと月ほど、殆どのように通っていた放課後
俺は美術室に行かなくなった。
約束はあれど明確な待ち合わせはしていなかった。
何曜日に、何時に美術室で会おうっていう話なんてした事はなくて
ただ行くと当たり前にどちらかがいるから殆どになっていただけだ。
運がいいのか悪いのか
それが今では美術室へ行かない口実となっていた。
教室ですれ違っても七種から話しかけられることは無い
気を使われているのか
はたまた気にしていないのか
やめだ
考えるのやめよ
七種を避け始めて二週間
その間、俺たちはクラスメイトなのだからもちろん顔を合わせる。
しかし、元々七種は俺と目を合わせることの方が少なかったから
今も顔を合わせるというよりは教室の中でも何となしにすれ違う程度
「そーいえばお前最近アレ、なくなったよな」
「アレってなにさ」
昼休みを伝えるチャイムで教室は騒がしくなる。
すぐにいつも通り数人の友人と食堂で食券を買って配膳の列に並ぶ
おぼんは、生ぬるい
「放課後だよ。ちょっと前まではホームルーム終わった途端、教室飛び出す勢いでどっか行ってたじゃん」
「あー」
「あれ絶対女だと思ってたのによー。何?別れた?」
「はー?そんなんじゃねぇよ」
「否定するとか余計怪しいな」
「あほか、そもそも付き合うとかそういう以前の問題だし」
なんて説明したらいいのか
そもそも説明する気は無いのだけれど
濁すようにそう言えば無言でじっと見られる。
「……」
自分から聞いといて返事はなしですかそうですか
てっきり話は終わったとばかりに食堂のおばちゃんからラーメンを受け取り、先に席に着いていた友人の所に行こうと足を踏み出す。
しかし、まだ感じる視線
「なんだよ」
「んー」
「……?」
聞いてもはぐらかせる。
頭に浮かんだ疑問符はこの際もうどうでもいい
今度こそ先に行こうとすると
「痛っ」
後ろから頭を叩かれた。
ラーメン零れたらどーすんだよ!
文句のひとつでも言ってやろうと振り返る前に耳に届いた声
「真面目に恋してんじゃねーよ」
すぐに言葉は返せなかった。
「……なんだそれ」
「励まし」
そんな励まし方があるか、励ますならもっとちゃんと応援しろよ
そもそも励まされる意味がわからん
言いたいことは沢山あるはずなのに
俺から出た言葉は
「……ん」
それだけだった。
昼間のことが頭から離れずどうするか、と考える。
俺は元々、自分で言うのもなんだが気分屋なんだ
今日はそういう気分になったから行くだけ
言い訳みたいだな
浮かんだ言葉に首を振る
久しぶり〜ごめんな、みたいな感じで行けばきっと大丈夫
もし七種が美術室にいなかったらもうそれこそ終わりにすればいいし
あ、でも課題……
遠目に観察すれば描けるだろ
そうじゃん、始めからそうすりゃよかったんだ
頭の中で勝手に色んなことを完結させていき
浅はかな考えで放課後七種がいないのを確認して教室を出た。
階段を上がって四階へ
そこから長い廊下を二つほど曲がれば遠くに美術室が見える。
「……?」
美術室の前に、誰かいる?
目を細めてよく見れば見知った顔
二年生だか三年生だかに絡まれている七種
考えるより前には身体が動いて
気づいたら俺は七種の手を取って走り出していた。
「あ、おい!」
「え、えっ?」
後ろから困惑した七種の声と焦る様な知らない奴の声
あれ、俺何してるんだろう
少し経って冷静になってみればやばいことをしてしまったんじゃないかって思い始める。
足を止めると二人分の乱れた呼吸音
意外と遠くまで走ったらしい
と、
「っ」
「……、」
一瞬、躊躇するように震えた腕が
次の瞬間には掴んでいた俺の手を振りほどいた。
そこで気づいた。
俺は選択肢を間違えたんだって
小さく、絞り出すような声がする。
「……なんで、」
それは何に対する言葉なのだろうか
声が震えていることに気づく
泣いているのかな
顔が見たいのに見れない
「……ほっといてくれて、平気、だった」
「……」
「ぼく、もう、笹原くんがどうしたいのか、わかんないっ」
いっそう深く俯いてしまった七種に
俺はどうしたらいいかわからなくなる。
どうしたいか、か
どうしたいんだろ、俺
そうだよな
逃げるみたいに放っておいたのに今更こうして七種に構ってる。
ただ、あの時
先輩だかなんだか知らないけれど七種の腕に触れた気がして
それが許せなくて、羨ましくて
なんで俺じゃないんだって
ああ、だめだ
もうやめたはずのものをいちいち考えるな
ほら……まただ
「七種の事考えてると、頭、ぐちゃぐちゃだ」
「、」
声に、出ていた。
それは紛れもなく俺の本音でただの八つ当たり
全部理由なんてわかってるのに
何かのせいにしたくて仕方がなかった。
七種といると知らない自分を見つける。
それがいい事なのかそうじゃないのかはわからないけれど
俺、こんなに弱気だったっけ
「ごめっ……」
「ごめん。なあ七種、嫌いにならないで」
「へ、」
何か言いかけた七種の声と重なる。
別にこんなことが言いたかったわけじゃない
ただの言い訳になるかもしれないけれど
七種の事が嫌で美術室に行かなくなったわけじゃなくて
自分の感情に整理がつかなくて、とにかく俺のせいでごめんねって
都合がいいかもしれないけれどまた放課後話したいなって
そう言いたかっただけなんだけどな
臆病な知らない俺が顔を出す。
日に日に大きくなる七種への想い
俺はやっぱり隠して捨てるなんてできないんだなって悟った。
それならもういっその事認めてしまった方がいいのだろうか
「嫌いじゃ、ないよ?……むしろ、」
顔をあげようとする七種から俺は目を逸らした。
その先が知りたいのに怖いと思うなんて
本当に俺、どうしちゃったんだろうね
初めてばかりの感情に戸惑う
「……笹原くん」
「……なに」
「こっち、向いて?」
そんな風に呼ばれたら俺は断れない
ゆっくり視線を戻す
俺、いま絶対情けない顔してるよな
七種は
笑う?呆れる?それとも怒ってる?
けれど実際はどれでもなかった。
見つめた先には
想像していなかった表情
七種の頬は林檎みたいに赤く染っていた。
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