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Happy Valentine Day
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「うーん、悩んじゃうなぁ…」
「操さん、さっきから何見てるんですか?」
スマホの画面を真剣に見つめる操に、多田が声をかける。
「どれも美味しそうで、迷ってるんですよ」
「美味しそう?なにがですか?」
不思議そうな多田に画面を見せる。
「チョコ、っすね」
いくつものチョコレートが画面に並んでいる。
「そんなの、美味そうなやつから買ってみたらいいじゃないんですか?」
簡単に言う多田に、操が目を丸くする。
「そんなお金持ちみたいなこと、できるわけないじゃないですか」
「はい?」
操の言葉に、逆に驚く。
「だって、この時期だけは普段食べれないようなチョコが出てくるんですよ!しかもお値段もそれなりで、そんなの厳選しないとお給料が無くなります」
操が見せる画面のチョコは、確かに一粒に4桁の値段がついていたりする。
しかし、それくらいなら藤堂に言えば喜んで買ってくれそうだ。
そんなことを考えていたら、あることに思い当たる。
「あ、バレンタインか」
「そうなんです!今なら色んなチョコがネットで買えて便利ですよね」
画面を見ながら楽しそうに操が言う。
「もう、毎年この時期の楽しみなんですよ」
「毎年?」
「はい、厳選したチョコを食べるのが、ささやかな贅沢です」
にっこり笑う操に提案してみる。
「それ、会長におねだりしたら、いくらでも買って下さるんじゃないですか?」
特に、いつも何かを強請ることなどほとんどしない恋人の頼みなら、いくらでも買ってくれそうではある。
操もこればかりは誘惑を断ち切れないのか、思案顔になっった。
そんな操に何気なく多田が投げかけた言葉が、さらに操を悩ませることになる。
「ところで会長にはどんなチョコを贈られるんですか?」
「…え?」
ぽかんと多田を見つめる。
「大河に?チョコ?」
まるでそんなことは考えていなかった操が眉を顰める。
「…もしかして、考えてませんでした?」
「はい、これっぽっちも」
操が大きく頷いた。
「そもそも、大河はチョコなんて食べないですよ?」
「いやいや、操さんからの贈り物なら大丈夫ですって」
「うーん…それに、男からもらっても嬉しくないですよね?なんか痛いし」
最近は友チョコなるものもあるらしいけど、あれは女子同士でやるから可愛らしいのであって、いくら恋人同士とはいえ男である操からあげるのは絵面的に辛いものがあると思うのだ。
「それに大河なら、あちこちからもらってきたりするんじゃないですか?」
「あー、それはないですね」
あっさり否定された。
「そういった物は、何が入ってるかわからないじゃないですか?だから一切受け取らないようにされていますよ」
「そ、そうなんですか?なるほど」
そういったことにも気を付けないといけないなんて大変だな、と感心する。
「あ、でもそれなら、市販のチョコもだめってことじゃ…?」
「さすがにそこまではないと思いますが」
「んー、クッキーなら毎年焼くんですけど、さすがにチョコは作ったことないしなぁ」
「なぜクッキーを?」
多田が不思議そうにする。
「毎年、お客さんとかお店の女の子たちからチョコ貰うんですよ。で、そのお返しに。買うと結構かかってしまうので」
倹約家らしい操の言葉は微笑ましいが、今年もそれをやられたら面倒なことになるのではないかと思える。
「操さん、クッキーは作れるんですね?」
「えっと、一応は」
「それでは今年は作りましょう!」
「作るって僕、チョコなんて作ったことないですよ?」
妙に張り切り始めた多田に、操が慌てる。
「大丈夫!俺が教えますから」
「作れるでしょうか?」
不安そうな操ににこりと笑って頷く。
「手作りなら会長好みのあまり甘くないものも作れますし、何より会長がお喜びになると思いますよ」
藤堂が喜ぶと聞いては、操も頷くしかない。
「それじゃよろしくお願いしますね、先生」
「がんばりましょう」
「あ、あの、このことは大河には内緒にしておいてくださいね」
操が恥ずかしそうに付け加える。
「わかってます。サプライズですからね」
まだ先だと思っていたら、もう明日がバレンタインデーだ。
早番で上がらせてもらった操は、初めてのチョコレート造りに挑戦していた。
チョコレート造りは温度とタイミングさえ気を付ければ、比較的簡単に作ることができる。
「操さん、なかなかうまいですよ」
多田の指導の元、慎重な手つきでチョコをテンパリングしていく。
「じゃ、ここでお酒を入れましょう」
藤堂が好んでいるというバーボンを加えて冷やし固める。
後は固まったら型抜きして完成だ。
「色々準備までしてもらって、すみませんでした。すっかりお任せしてしまって」
「作業をしたのは操さんですから」
「ちゃんとおいしくできてるでしょうか」
ボウルに残ったチョコを少し舐めたりはしたが、完成品の味はわからない。
多田にしても、藤堂のために作られたチョコを味見するなど、そんな命知らずな真似はしたくなかったしできない。
「操さんの愛情が詰まってるんです、美味しいですよ」
見た感じは美味しそうなチョコになっている。
それをラッピングすると完成だ。
別に告白とかをするわけではないが、なぜかドキドキする。
手作りのガナッシュチョコなので、直前までは要冷蔵だ。
大河が喜んでくれますように…
そう心の中で呟きながら、冷蔵庫のドアを閉めた。
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