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結局、夜になって漸く帰ってきた雅琴は服も着替えずに仏壇前の机に突っ伏した。
顔には明らかな疲れが滲んでいて、乱雑に放ったバッグの中からお見合いの詳細と思われる書類が飛び出している。
俺は息をつくと共に雅琴に近付いてその肩を揺する。
「雅琴、そんなところで寝たら風邪ひくよ」
「ん〜…、ぅ…」
無防備な寝顔に苦笑しつつ俺はその肩にそっとブランケットを掛けた。
「お疲れさま」
柔らかい黒髪に触れて優しく撫でながら俺の視線は自然と仏壇へ向かった。
見る度に、これさえなければと眉間のシワはより濃くなる。
そんなに辛い思いをするくらいなら、いっその事忘れてしまえばいいのに。
「…何がそんなにいいの、雅琴」
返って来るはずのない囁くような問い掛けが静寂の間に淡く溶け込む。
「…いい加減…、雅琴のこと解放してあげなよ」
現実を受け止めきれなかった雅琴はきっとまだ夢の中にいる。
現実を受け止めたつもりでいて、いつまでも仏壇の向こう側を見ている雅琴は現実から目を背けて逃げ惑う幼子のようだ。
縫いとめてしまっている時間を進めて、夢の世界から早く雅琴を解き放ってほしい。
そうしたら、そうしたらきっとーー。
「…何か、変わるかな」
確証なんてない。
ただ、今はそれに縋ってしまいたかった。
「…雅琴…、好きだよ…大好き…」
眠る雅琴を抱き締めて譫言のようにそう呟いた。
傍にいるのに伝わらないもどかしさに胸がざわつく。
「だから…もう、忘れなよ」
これは、俺の我儘だけど。
俺は乞うように雅琴の髪にそっとキスを落として、静かに目を伏せた。
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