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「…何かあったの?」
不意に本を読んでいた悠が翼の顔を見てそう尋ねた。
今まで悠から翼に話し掛けることなど殆どなかったのにも関わらず悠が翼に声を掛けたのは、思わず悠が訊いてしまうほどの空気を翼から感じ取ったからだった。
翼はハッとしてなんでもないよ、と手を振った。
「ハーくんが俺に話し掛けるなんて珍しいねー、いつもそれくらい積極的でいいんだよ?」
何とかいつもの調子を取り戻そうとする翼は事情を知らない悠から見ても、思わず眉間に皺を寄せてしまう程には痛々しかった。
悠は読んでいた本を膝に置いて窓の外に目を向ける。
窓からは朝の穏やかな陽の光が入り込んでいて、悠は眩しさに目を細めた。
「…翼さんがそれでいいならいいけどね。どうせ、ここには俺と翼さんしかいないんだから。俺は、一回本に集中しちゃえばどんな音も耳に入らなくなるから、俺はいないようなものだしね」
そう言ってまた本に視線を戻した悠だったが、素っ気なく見えてその言葉が翼を気遣うものだということは明確だった。
翼はそんな悠を見て驚いたように目を見開いてから嬉しそうな顔で困ったように笑う。
「…人間関係って、難しいね。…もう、わかんないや」
弱々しくそう呟いた翼に悠は思わず視線を向ける。
人間関係を一番上手く築けていそうな翼でもそんな悩みがあるんだな、と悠は単純に興味深く感じた。
そのまま俯いて黙りこんでしまった翼のあまりの落ち込みように悠は言葉を返すべきか返さないべきか悩んだ後、静かに息を吐き出した。
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