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その日の晩、珍しく早い内に寝床についてしまったミギナの目を盗みセレンは自分に用意された部屋を出た。
暗く長い廊下を辿りながら昼間の不快感極まりない会話を思い出してセレンは顔を顰めた。
『あの、彼をベッドに移動させてあげた方がいいかと。どこか悪い所があるのかもしれない。こんな冷たくて固い場所じゃなくてもっとちゃんとした…』
『あぁ、いいんだよ。こいつはそういう為の物なんだ』
『…物…?』
『実験体としては完璧な個体だが、お前のように優れたものではなく、人間ならば必要な多くの要素が欠落している。現にアレは歳を取らない。数年前に作った時と何一つ変わっていない。髪は随分伸びたがな』
そう言いながらミギナはぐったりとしたメイアの髪を掬って上着のポケットから鋏を取り出した。
『ちょっと…!何を、するんですか』
『切るんだよ、いい研究材料になる』
『本人の許可も無しにですか』
『…セレン、お前何か勘違いをしているようだが、所詮こいつは実験体でそれ以上でも以下でもない。お前だって、メイアを使った実験と研究によって生み出されたんだ』
『…それはそうかもしれません。でも、彼にだって心があるんですよね?それに…この身体だって、これ以上はもうもたない』
弱りきったメイアは幾ら人形と言えども、あまりに悲惨な有様だった。
見た目は本物の人間と大差が無いからこそとてもじゃないが人道的とは言い難い。
然し彼は溜息をつきながら手持ちの手帳に何かを書き出し始めた。
『…そろそろ限界か。この前の薬が強すぎたようだな』
『…なんとも思わないのですか。仮にもご自分の手で作った人形なんですよ?』
『あぁ、そうだな。だからどう使おうが私の自由なんだよ、セレン。駄目になったのなら壊して作り直せばいい。今までだってずっとそうしてきたんだからな』
『…研究の為に…彼を殺したのですか…!』
『何をそんなに驚くことがある?物は壊れたら直すだろう、それと同じだ。例えその個体がまた別の物になろうと、記憶さえ引き継がせれば元の個体と大して変わらない。研究中の物が壊れるなんて普通だろう?研究者はその研究と失敗を積み重ねてこの世に新しいものを生み出すのだから』
『だからといって殺すなんて…』
『メイアは物だ。人間じゃない。殺すのではなく壊れてしまうんだ。どうせ直ぐに作り直す。…お前は何がそんなに不満なんだ、セレン』
『……、っ』
狂っている。
セレンはそう思った。
ミギナは自分にとって生みの親であり、主人であることは確かだ。
然し、例え自分が人形であってもこれが異常であることは嫌でも分かる。
結局その後セレンは何も言い返すことが出来ずに口を噤んでしまった。
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