アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
11.
-
千尋は一千花の家に着くなり庭先にまわり、いつもの寝室がある廊下の前の縁側に向かった。
部屋に入って一千花の顔を覗き込む。
白い頬が仄かに赤く染っていた。
「一千花」
千尋は殆ど息のような声で名前を呼ぶと、その目がゆっくりと開かれる。
一千花は千尋の姿を捉えると柔らかく微笑んだ。
「おはよう、調子どうだ」
「んー、少しだるいかも。でも大丈夫」
「そうか。まぁ無理すんなよ、親父から解熱薬貰ってきたから、取り敢えずこれ飲んどけ」
一千花は上体を起こすとありがとう、と言いながら千尋から薬を受け取る。
どこか虚ろな視線がぼんやりと一箇所を見つめたまま動かない。
口では大丈夫と言っておきつつもあまり調子は良くなさそうだと千尋は感じ取った。
「今日も親いねぇのか」
「多忙な人達だからな。俺が寝てる間に、この家の者としてのやるべき務めを全うしているんだよ」
「寂しくねぇの?」
「全く寂しくないって言ったら嘘になるけど、でも平気。お手伝いさんもいるし、最近はお前が来てくれるから」
嬉しそうにそう言う一千花を見て気恥ずかしくなった千尋は一千花から視線を逸らした。
「別に家まで来るくらい何の負担もねぇし、どうせ家にいてもやることも無いしな」
「剣の稽古とか家の手伝いとか色々あるだろ?」
「そんなの夜でも出来るし、陸達もいるからいいんだよ」
千尋の言い訳じみた返答に一千花は笑いながらある名案を思い付く。
「あ、じゃあ明日から木刀持ってこいよ。好きに庭使っていいし、俺がお前の稽古見てやる。俺に勝つんだろ?」
「はぁ?なーに病人が上から目線で言ってんだ。寝てるやつにそうそう負けるつもりねぇよ」
「どうだか。まだ一度もろくに俺の技防いだことも無いくせに?」
揶揄うように目を細める一千花に千尋は眉間に皺を寄せながらうるせぇ、と返す。
「で、やるの?やらないの?」
出会った時と同じ挑戦的な目を向ける一千花に千尋はカチンときて左手で握った右手ををバキっと鳴らした。
「…やってやろうじゃねぇか」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
95 / 257