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その日の夜、皆が寝静まる中千尋はぼんやりと天井を見つめながら一千花のことを考えていた。
確かに一千花の言う通り、あの家には剣の達人が揃っている。
一千花の父や祖父はこの辺りでは特に有名な武士だった。
例え病人でも一千花だって由緒ある武士の一家の息子だ、心配することは何も無い。
その筈なのに、千尋はその事が気になって全く寝付けなかった。
「…何か嫌な予感がするな」
妙な胸騒ぎがして千尋は跳ね起きると、家族を起こさないようにそっと家を出た。
念の為腰に刀を携え、静寂に包まれた暗い道を走る。
すると一千花の家に近付くにつれてその違和感に気付いた。
「なんだ…この匂い…」
何かが焼け焦げたような悪臭と煙が辺りに立ち込めていて、視界が悪い。
その発生源は明らかに一千花の家の方角だった。
「……!一千花…ッ」
千尋は足を速める。
ーーそして目的の場所に辿り着いた時、千尋は目の前の光景に唖然とした。
燃え盛る家、女性の悲鳴、男達の野太い叫び声。
嘘であって欲しいと、そう願ってしまった。
然しこれは嘘でも夢でも無く紛れもない現実で、千尋は歯を食いしばって家の中へ足を踏み入れた。
向かってくる黒ずくめの男達を前に低姿勢で抜刀した千尋は、一千花と鍛えた技で次々と相手を倒していく。
「一千花!一千花どこだッ!」
今まであの寝室にしか行ったことのなかった千尋は無我夢中で一千花を探した。
火の手がこれ以上回ってしまえば探すのも困難になる。
ーー既に逃げているならいい、でももしまだ家の中にいたら…。
「クソッ…!!」
千尋は床を強く蹴って廊下を走り出した。
すると前方から誰かが走ってくるのが見えて千尋は刀を構える。
然し煙の向こうから見えてきたのは汚れた着物を身に纏った黒髪の女性だった。
女性は千尋を見て一度足を止めたが、千尋が敵ではないことを示すと慌てて駆け寄ってきて千尋の着物の合わせを掴んだ。
「お願い…!!あの子を…一千花を助けて…っ!!」
「……ッ!」
切羽詰まった女性が出した名前に千尋はハッと目を見開く。
「一千花…!一千花はどこに…!」
「すぐそこの部屋の中です…!お願い…っあの子を…、あの子を助けて…っ」
涙に濡れた顔でそう懇願してくる女性に頷きを返して千尋は再度走り出す。
「一千花!!」
千尋が廊下を滑るように駆けて部屋の壁に手を付き中を覗くと、そこに一千花はいた。
然し、その光景は余りに異常で惨いものだった。
部屋の中には何人もの死体が転がっていてその一帯は血の匂いが充満している。
こちらに背を向けている一千花の前に立っている男の心臓に一千花の刀が貫通していた。
一千花がそれを勢い良く振り下ろせば男は血飛沫を上げながら床に倒れ込んだ。
一千花の刀から血が滴り落ちて床を汚していく。
千尋は今までに感じたことの無い恐怖と絶望感に声が出なくなり、身体を戦慄かせた。
呆然と立ち尽くしたまま不意にフラリと一二歩下がった一千花の手から刀が零れ落ちる。
すると突然一千花の膝がカクリと折れ、こと切れたかのように床へ倒れ込んだ。
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