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「みんな待たせてごめんねー。今鋭いツッコミをいれてきたイケメンがドラムのユウね」
暫しの茶番を終え、ヤトは何事も無かったかのような笑顔で後ろのユウにスポットを当てる。
「どーも、ドラム担当のユウです。…んじゃま、時間もないし折角のライブなんでお決まりの煽りさせてもらうけど。…お前らの体力はこんなもんか?まだまだ声出せるよなッ!」
ユウの煽りに女性の黄色い声だけでなく、男性の野太い声も混ざる。
高身長で簡素なTシャツとジャケット越しにも分かる筋肉質な身体は、同じ男である蒼司から見ても憧れを抱いてしまう程の肉体美で、ユウが男性から人気がある理由が分かった。
大人しく無気力系なタイプだと思っていたが、煽り方も男らしく艶やかな低音が格好良い。
先程女性からの黄色を通り越してピンク色の歓声を受けていたヤトとはまた方向性がかなり違っている。
「ヒューっ流石ユウちゃん!痺れちゃうね!…じゃあ次は…よしっリーダーいこうか」
「お、次は俺か」
そう言って人が良さそうな顔で笑うとチハヤは一歩前に出てスタンドマイクを手で引き寄せた。
「改めまして、リーダーのチハヤです。ヤトのテンションは相変わらずだけど、みんな、ここまでちゃんと追いつけてる?」
個性的で自由な二人に続いてのチハヤは良い意味で常識的なタイプの美青年だった。
チハヤを纏う空気はとても穏やかで茹だるような会場内の熱を飽和してくれる。
先程までの盛り上がりの歓声とは違い、大丈夫だよーといったような言葉でのレスポンスが多く聞こえ、実際に一対一で話しているような感覚だ。
真面目で落ち着きのある声になんだか安心感を覚える。
「よかった。俺達のライブはまだまだ始まったばかりだからね、ちゃんと気合い入れてついて来てくれよな!」
チハヤがそう言って拳を突き上げると皆至極楽しそうな表情で同じように拳を上げた。
それを見てヤトがヒュー、とこれまた器用に口笛を吹く。
「リーダーカッコイー!…そんじゃラストは、ウチの要、ボーカルのケイ!」
その名前を聞いて、来た、と蒼司はステージの中央に目をやった。
MCの自己紹介ということで三人が一言ずつ喋っている中、本当に彼は一言も喋らないのかこれで明らかになる。
すると不意にヤトが何かの合図のように一瞬ウインクをし、いつの間にかケイの真隣に立っていたチハヤがそれを受け取って小さく笑った。
次いでヤトがユウにも同じようにチラリと視線をやるとユウも僅かな頷きを返す。
然しあまりにもチームワークの取れた一瞬の出来事に違和感を感じる人間はおらず、蒼司だけがその微々たる空白の間に小首を傾げていた。
「…なんだけど、ここからは恒例のケイ限定特別コース!皆にも俺達のお姫様の可愛いところとかをたくさん知ってもらって、ケイのことをもっと好きになって帰って貰えるように、今日は〜…そうだな…、よし決ーめたっ。俺達メンバーの方からケイの好きなところを赤裸々に告白していきます!」
「えっ」
「うわ…マジかよ…」
ヤトの唐突な特別コースの内容にチハヤは言葉を詰まらせてユウは頭を抱えて項垂れた。
ザワつく会場で蒼司は意味がわからずに、眉間に皺を寄せる。
「ほらほらー二人とも言わないんなら俺からいっちゃうよー?ケイの好きなところなんて山ほどあるもんね」
そう言いながらヤトは軽い足取りでケイに近付き、その身体を抱き締めた。
「まずはねーやっぱり可愛いところかな。ただ可愛いんじゃないんだよ?天然で、ちょっと不器用で、頑張り屋さんで、優しくて、兎に角ホントにいい子なんだよねー。あとはやっぱりオンオフのギャップかなー。歌ってる時はあんなにかっこいいのに、歌以外になると恥ずかしがり屋ですぐ顔赤くしちゃったりしてさ。ホントに可愛いよね」
更に強く抱きしめると腕の中のケイは困ったように身体を揺らして、オロオロと頭を振り始めた。
「こらヤト、ケイが困ってんだろ」
近くにいたチハヤが溜息をつきながらケイの腕を引き、自分の方へと身体を引き寄せる。
強引に剥がされたヤトは文句ありげに口を尖らせてチハヤを恨めしそうに睨んだ。
「いーじゃんか、そうやっていつもチハヤはケイのこと独り占めしてさ?ねー、みんなもズルいと思わない?」
するとそんなヤトに便乗した観客のずるいー、や羨ましいー、ケイちゃん可愛いー、等の声に加え、尊すぎる、眼福…、お姫様争奪戦、等蒼司には分からないような言葉も投げ掛けられた。
「煩いなー…ほんと。な?ケイ」
抱き締めたケイの手を握りながらチハヤはケイの耳元に口を寄せてボソリと呟く。
今までどの言葉にもあまり反応を示さなかったケイが漸くピクリと反応し、不思議そうにチハヤの顔を見上げてから小さく頷いた。
その光景に女性ファンが発狂する。
王子と姫、エロすぎる、ヤバい、と言った声が飛び交う中ヤトはケッと悪態をつきながらハイハイ、と呆れたように言葉を挟んだ。
「二人がラブラブなのはもうよーく分かってるから、イチャイチャすんのはそこら辺にして、早くケイの好きなところを言ってくださーい」
「んーそうだな…ケイの好きなところは沢山あるけど、一番は声かな。歌ってる時の格好良いのもいいんだけど、俺が好きなのは、メシとか作ってやった時に嬉しそうに笑いながらありがと、って言ってくれた時とか、俺が帰ろうとした時にもう帰っちゃうの?って俺の袖引きながら寂しそうに言ってくる時とか……堪らないよな」
「うっわ…変態かよ」
「チハヤやば…」
「なんでだよ!」
結構真面目な声のトーンで引いている二人にチハヤは思わず大声でツッコんだ。
つい数分前までの落ち着いた彼とは似ても似つかず、一番まともだと思っていたのは間違いだったようだ。
然しファンにとってはそれも既知の事実らしく、蒼司の周辺にいた観客はこの微笑ましいといっていいのか分からない光景を笑顔で見守っている。
問題のケイ本人は不思議そうにチハヤの顔を見つめているだけで声を発することはなかった。
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