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山野辺君②
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それから俺は愛人にしてもらえた。
「真広」って下の名前で呼んでもらえるようになったし、葵唯との距離も縮まった。
周りのクソ野郎共が偏見の目で見てきて鬱陶しかったからぶん殴ろうとしたけど、莉紅が嫌がるから喧嘩はしなくなった。
毎日莉紅の部屋に呼ばれた。どんどん好きになってたまらない。
莉紅との全てを二人に気付かれないように動画に収めた。二人がいない間に部屋に盗聴器も仕掛けた。
だって二人は二人暮ししてるのに、俺だけ実家住みで狡いだろ。俺だって二十四時間三百六十五日、一緒にいたい、一秒だって離れたくないよ。
けど、一ヶ月後。卒業式間近だった。
俺は卒業式なんて嫌だった。同じ高校に行けたら良かったのに、これじゃあ会える時間が減ってしまう……と憂鬱になっていた時だった。
「ねぇ、盗撮と盗聴……してるでしょ?」
いつものヤリ部屋で、なかなか始めないと思っていたら、莉紅と葵唯が神妙な顔して、俺の前にカメラと盗聴器を出してテーブルに置いた。
「うん。なんで外しちゃったの? 俺がいない間の二人を見ててもいいよね?」
「いいわけないだろ。さすがにこれは犯罪でしょ」
莉紅は呆れ顔、葵唯は困惑した顔のまま莉紅の隣に立っていた。
理由を説明すれば、内容によっては許さない事もないと言われた。
「だって、一秒だって君と離れたくないんだよ。そうだ、高校生になったら盗聴器ずっと持ち歩いてよ。
そしたら俺も君と一緒にいられる気がするんだ。
莉紅を愛してるから……」
「うん、君危ないね。もしかしてさ、疑いたくないんだけど、僕のもの盗んだりとか、葵唯に脅迫の手紙送ったのも真広?」
莉紅は俺が葵唯に送った手紙をテーブルの上に置いた。『永瀬莉紅と別れろ。殺す』という文だ。
「……何か問題でも? 俺は莉紅のものだよ、莉紅も俺のものだよね?
君のものは俺のものだから貰うのは当然だし、葵唯は邪魔だから殺されても文句ないよね?」
おかしいんだ、二人とも。俺がおかしいみたいな顔してさ、そっちが変なのに。
莉紅は俺のモノ、葵唯は要らないから消す。
こんな単純な事も分からないのに、俺が進む高校より偏差値の高い高校進むなんて。
「君はもう僕の愛人にしてあげられない。別れてくれ」
「…………は? どうして?」
「嫌だからに決まってる。こんな事……恋人のする事じゃない」
どうして、どうして、どうして、どうして──!?
「待ってくれ! 今に分かる、俺がどれだけ君を……」
「悪いけど、君の意見はもう聞かない」
いつの間に俺の後ろに回ったのか。葵唯が俺の腕を掴んで背中の後ろで両腕を縄で結んだ。
「葵唯。十分にお仕置きしてから追い出してね。それはもう僕の愛人じゃないから」
莉紅の冷たい言葉に、俺はただ泣く事しか出来なかった。
葵唯に連れられて地下室に行くと柱に繋がれた。
「な、何をするんだ!? お仕置きなら莉紅にされたかったのに」
「何もしないよ。俺は莉紅と違って人を簡単に傷付ける事は出来ないから。でも、今莉紅がお仕置きすれば、君の命が危ない」
「それで葵唯がやるってわけ?」
「……それもしない。莉紅は今傷付いてるから様子は見にこないよ。だから俺からは何もしない。
三時間くらいしたら帰す。もう二度と莉紅に近寄らないでくれ」
冷たい目だった。親の仇でも見るような蔑む目だ。
俺はただ莉紅を愛しただけだ。莉紅さえいてくれれば良かったのに。
何がいけなかったんだ? 盗撮? それとも盗聴?
今から嫌なところは直すよ。だから、俺を捨てないでくれ!!
そう心の中で訴えると涙が零れて服を濡らした。葵唯は、俺の心が読めるみたいに、どうしたら良かったのかを説明した。
「一緒にいたいならそう莉紅に言えば良かった。俺も一緒にどうしたらいいか考えたし、ここに移住とか……考えたかもしれない。
一人で悩みを抱えてるって分かれば、監視するような事をしなければ、こうはならなかったよ」
葵唯はそれだけ言うと、地下室から出ていってしまった。
俺が莉紅と葵唯に会った最後の日だった。
それから数ヶ月。
高校はやっぱり楽しくない。高校では普通にしようと思っていたけど、俺が不良だったって周りにバレていて、誰も近寄らなかった。
そうなる事は予想していて、もう不良じゃないってアピールする練習もしていたけど、莉紅がいないんじゃもうどうでもいい。
死にたくなった。俺は莉紅がいなきゃ生きていけない。愛してる。もう一度、愛人に戻りたい。
でも最後に会った日の莉紅の冷たい声と葵唯の冷たい目を思い出すと、簡単に会いに行こうとは思えなかった。
だから、七月。夏休みが始まる前に高校を中退した。親は俺の事諦めてて、何も言わなかった。
やる事もなくて、毎日莉紅の家の前で彼を見守った。
相変わらず葵唯は一緒に住んでいて、新しい愛人であろう真面目そうな女子と気の弱そうな男子が、毎日のように慣れた足取りで家に入っていく。
いいなぁ。俺も贅沢言わないから愛人に戻して欲しい。なんでもするから……。
永瀬の家から帰っていく愛人の二人を、前のめりになって見ていると、男子の方が急に振り返った。
「アッキーどうしたの?」
「いや、なんか視線を感じて……。夏希、今日は途中までじゃなくて家まで送る」
「いいの?」
「もちろん、当然だよ。今度からそうする」
そう言いながら、二人は遠ざかっていく。俺は莉紅の家の前から離れる気など毛頭ないけどね。
周りが寝静まった深夜。莉紅の家の電気が全て真っ暗になった。
俺は前に作っておいた家の合鍵で家に侵入した。
前と変わらない。匂いも、空気も……。莉紅が過ごしている家だ。
俺は迷わずに莉紅の部屋に入った。
可愛い俺の莉紅はスヤスヤと眠っていて、多分人類の中で一番可愛い寝顔なんじゃないかって思えた。
この中で三時間過ごすのが俺の日課となった。
毎日ではないけど、退学してニートだし、親は放置だからなんでも出来る。こうして莉紅の近くにいる事も……。
顔を見れるだけで幸せだ。隣にいられるだけで幸せだ。それに寝ている莉紅は俺に冷たい目を向けない。
不法侵入だって分かっていてもやめられなかった。そんな日が一週間程経った時。
俺は眠っている莉紅をじっと見つめていた。
「真広」
──と。いきなり背後から聞こえた声に心臓が飛び跳ねるかと思うくらいビビった。声で分かる、葵唯だ。
「……こっち!」
葵唯は俺の顔を認識すると、強ばった表情で俺に手招きしてきた。無視しようとも思ったけど、莉紅に知られたらもうここには来られないだろう事は分かっていたから素直に部屋から出た。
葵唯は甘い男だ。交渉次第でこの生活を続けられると、思っていた。
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