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大谷君④
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「なぁ大谷君はさ、莉紅の事どう思ってるわけ?」
そう佐々木君に問いかけられた時、俺は答える事が出来なかった。
あれは夏休みの時の事だ。
LINEのIDを交換してから初めて永瀬君から電話が来て、翌日に二人だけで遊ぶ事となった。
永瀬君の愛人達、小倉君と梅山さんと佐々木君はそれぞれ用事があって一人きりという事で何故か俺に連絡が来た。
嬉しい……いや、変な期待はせずに行かないと。
永瀬君が愛人と手を切って俺に告白してくる、なんて夢だけの話だ。
どういう経緯で愛人を増やすようになったのかは、俺は知らないけど、なんか理由があるみたいだし、俺は彼らが学校で性行為をした時に注意するだけだ。
それだって、今は正義感の為ではなく、自分が少しでも永瀬君と関わりたいからしているに過ぎない。
君が喘ぐ姿を見て何度抜いた事か。
けれど君は中間試験が終わってから、学校でしなくなってしまった。入学の時に撮ったクラス写真の永瀬君を見てのオナニーもご無沙汰になっている。
愛人にしれもらえれば──と考えて、思考を停止させる。
それは違う。俺は永瀬君の恋人になりたいのであって、愛人になりたいわけではない。
やはり、明日言ってしまおう。このまま気持ちを抱えたままでいては何も手につかない。
そして、翌日の十一時に永瀬君と駅前で集合した。俺は何故かソワソワしてしまって、普段着ない黒のカジュアルシャツに、チェック柄のズボンだ。
恥ずかしながら少しオシャレをしてしまった。
「おはよ、待たせちゃったかな?」
永瀬君は遅れてやってきて、気まずそうな顔をしている。
「おはよう。ま、待ってないよ、大丈夫」
漫画でこんなセリフを見た時、ベタだなぁって思っていたけど、自分が同じ立場になるとなんだかむず痒いものを感じた。
「お昼食べる? 新しくカレーのお店出来たんだけど、どうかな? 何か食べたいものある?」
「カレー! いいね! 行こう!」
俺、なんでキョドってんだろ。それは分かっているのにガチガチに固まった体は解れてくれない。
好きな人と二人きりで出掛けるのは人生で初めてだ。
「私服姿、カッコイイね」
「な、永瀬君も、かっこいいよ……」
服を褒められただけなのに、自分の全てを認められたような錯覚を覚えた。
永瀬君は、白いシャツにグレーの半袖のパーカーベストと、七分丈のカーゴパンツだ。ふくらはぎから下が何故かエロく見える。俺はおかしくなってしまったのかもしれない。
連れて行かれたのは、インド人が切り盛りしている本格的なカレー屋だった。
「こういうカレー屋さん好きなんだよね」
永瀬君が迷わずランチセットから、カレー二種類選べるナンが付いたものと、タンドリーチキンを選んだ。チキンは二人で分けると言っていたから、俺も同じランチセットを頼んだ。
バターチキンとキーマにした。永瀬君はよく分からないけど、野菜が多く入っているものとマトンとかいうのを頼んでいた。
「美味しいね。僕カレー好き」
「日本人って皆カレー好きだよね」
「なんでだろうね」
「美味しいからじゃない?」
「それは頷ける」
オチの無いような雑談をしながらナンをカレーに付けて食べる。カレーのルーで作るよりも美味しい。家のカレーも美味しいけどさ。
「付き合ってくれたお礼に奢るね」
と、永瀬君が支払いをした。ここは男の俺が……と言いそうになって、やめた。だって永瀬君は男だし。
いつから女性のように見ていたんだろう。
俺の永瀬君への思いは、永瀬君が女性のように思える事からの錯覚か? とも思ったが、確かに顔は女性的な可愛さがあっても、体つきはどう見ても男だからやっぱり錯覚じゃない。
一緒にいて、好きだという気持ちが強くなった。俺の目の前でカレーを頬張っていた永瀬君が頭から離れなくなった。こんなに可愛い生き物はいないと思う。
「じゃあ、今日は付き合ってくれてありがとね〜」
外に出ると永瀬君がそう言って手を振り始めた。
え、これからまたどこかに行くんじゃないのか? 昼ごはんだけ?
「えっ、あ、う……もう帰るの?」
「なになに、もっと僕と一緒にいたいの? エッチする?」
「しないよっ!」
もう永瀬君は、俺を茶化すんだから。そういう事を高校生がするのは早いと思うんだ。俺達はまだ子供なんだから、子供らしく遊ぶべきだ。
もう帰るのなら、遊べないけど……。
「冗談だよ。実はさ、もうすぐ夏希の誕生日なんだ。サプライズするから、誕生日プレゼント一緒に選んで欲しいんだけど」
「そういう事なら! いいよ、付き合う」
梅山さんだから女子が好きそうなものか。なんだろ……。
二人で百貨店に向かった。一階は広々とした店内に、沢山の人で賑わっている。少し雑貨もあるが、化粧品売り場がメインだ。そこを通り過ぎてエスカレーターで上の階へ進んだ。二階や三階はハイブランドの店ばかりで客はほとんどいない。四階はメンズだ。
永瀬が五階で下りていったのでついて行くと、陶器の店で立ち止まった。
「夏希にカップでも買おうかなって」
「高そうな店なんだけど……」
「夏希の負担にならない金額にするから大丈夫」
カップを見ていると店員が話し掛けてきた。永瀬君が興味を示したものを一つ一つ説明していく。
そのブランドで作っているオリジナル製品がメインで、特別なものを使っているのだと自慢される。
「大谷君はこれどう思う?」
「可愛いんじゃないか? 男なら選ばなさそうな可愛い作りだし、女性人気なんですよね?」
店員に確認すると「はい、一番人気がありますね」と答えた。仕事だからだろうが優しい女性だ、本当はこんな女性の方が好みのタイプだった筈なのに。
「じゃあコレかな。夏希みたいに優しい色してるし、良いかも。ラッピングお願いします」
なんだか本当にデートみたい。永瀬君の隣にいるのが俺じゃなく、愛人達ならそう思えたんだろう。
俺はただのクラスメイトでしかない。デートにはなり得ない。
楽しそうに梅山さんに合うものを選んでいる永瀬君を見ていると、告白しようと思えなくなってくる。
わざわざ今日告白しなくてもいいんじゃないか、と保身に走りたくなった。
「次は映画でも行く? 僕観たい映画あってさ、もし大谷君も観たいって思えるものだったらどうかな?」
「あ、うん。良いよ。特に苦手なジャンルとかないし、一緒に観ようか」
「うんっ」
映画館へ向かっていた時だった。ちょうど佐々木君とすれ違った。佐々木君はお母さんらしき女性と一緒で、永瀬君と俺の顔を見て驚いていた。
「和秋! 偶然だね〜」
「ビックリしたよ、二人でどこ行くの?」
「映画館。今ね、夏希のプレゼント買ったんだよ」
「うん? ナッキーって誕生日……」
「二十六日だよ」
「マジ!? やば、用意しなきゃ」
ナッキーというのは梅山さんの事か。愛人同士で仲が良いのも不思議な気がする。でも、そうだった。梅山さんは小倉君が好きだから永瀬君の愛人になったんだった。
対する佐々木君は、永瀬君に一途だ。
「息子がいつもお世話になってます」
ニコニコした顔の女性はやはり佐々木君のお母さんだった。優しそうな顔だけど、芯のある真面目そうな顔付きをしている。死んだじいちゃんを思い出す。
怒ったら怖そうだな、というのが第一印象。
「僕こそいつもお世話になってます」
永瀬君は優しい笑顔で頭を下げた。
俺はそんなに佐々木君と会話しないしなぁと会釈だけしておいた。
「お母さんそういうのいいから。今日だって本当は莉紅と遊びたかったのに、お母さんがどうしても買い物付き合えって言うから」
おっと佐々木君、反抗期特有の態度だ。しかも少し照れ臭そうな顔をしている。家じゃツンデレか。
「いいでしょ、折角私も休みだし。あなたも夏休みで暇なんだからお手伝いしなさいよ」
「あはは。和秋、昨日と言ってる事違うじゃん。明日は久々にお母さんとお出かけだから、バッグ以外の荷物は全部俺が持つんだって言ってたのに」
「ちょっ、莉紅! それ言うなよ〜!」
「そうなの〜? 頼もしいわね」
佐々木君は顔を真っ赤にして大慌てだ。その気持ち凄く分かる。
母親の前でお母さん大好きな態度は取れないよな。可哀想に……。
「少しお話していくでしょ? 私先に行ってるわね」
「うん、そっち行く時電話するよ」
そしてお母さんは先に行った。空気の読める息子思いの母親だ。
母親がいなくなると、佐々木君は永瀬君と俺を交互に見て、ムッと少し拗ねたような顔をした。
「ふぅん。まさか二人でデートしてるなんてな」
「皆都合悪くてさ。それより、和秋。
君さえ良ければ、僕は君のお母さんに挨拶しようと思うんだけど……」
な、なんだって!?
永瀬君の発言に、俺だけじゃない佐々木君も驚きを隠せずに目を丸くした。
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