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小倉君④
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幹雄さんはお母さんがいない時に俺を殴った。腹や背中など、見えない部分を傷付ける。
俺がお母さんに言わないのを知っているから。
先生や他人に言えばお母さんに知られる、だから泣き寝入りするだろうというのも知られていた。
当然、俺はお母さんに知られないようにした。
幹雄さんといる時のお母さんは、なんか幸せそうだったから言いたくなかった。
幸せそうなのは最初だけって分かってるんだけどね。あと半年もしない内に離婚するだろって思って、我慢をする事に決めたんだ。
けど、すぐに俺の異変に気付いた人がいた。
「ねぇ、葵唯。新しいお父さんに何かされてる?」
「へっ!? なんで?」
「はぁ。マジでそうなんだ」
「だからなんで?」
「分かるでしょ。お母さんが再婚してからおかしいよ」
おかしいってどこがだろ。いつも通りにしてた筈なのに。
「いつも通りにしようって意識してたでしょ。他の人は気付かなくても、僕は分かるよ」
「あのさ、何も言わないで欲しいんだけど。うちの家庭の事だし、大丈夫だから」
「首突っ込もうってわけじゃないよ。でも困ったら僕を頼ってよ、君は僕の愛人でしょ」
「うん」
「この流れで言うのもなんだけど、僕愛人増やそうと思ってて」
「えっ!?」
この後の会話は頭に入ってこなかった。
莉紅はこれ以上俺の家庭の話はしないと約束してくれた。半年の我慢だ、離婚してしまえば莉紅に心配かける事はなくなる。
けど俺の予想を裏切って、半年経って梅雨を過ぎてもお母さんは幹雄さんと離婚しなかった。
俺の身体は痣だらけで、プールの授業は休んだ。
家の問題とは別にコロコロ変わる莉紅の愛人。殆どが莉紅の見た目に惑わされて、中身を知っていなくなる事が多い。
莉紅は大人しそうに見える。可愛いと思って付き合いだして、意外な我の強さに「想像と違う」「こんな永瀬は永瀬じゃない」といなくなった。
「もう愛人増やさなくていいでしょ」
俺一人じゃ不満か?
「寂しいんだ。緑一人いてくれれば他の人は要らないんだけど、緑がいないと君一人じゃ寂しい」
「そう」
なんとも思わなかった。莉紅の事、本当に好きじゃないからだ。
結局、どこにいても俺は不必要な人間だから、いてもいなくてもいいんだ。
緑がいない世界は灰色だ。痛くて、痛くて、苦しい。
「いいんじゃない? 俺と莉紅はお互いを緑の代わりにしてんだ。愛人を増やそうが、莉紅の自由でしょ」
「うん。だよね〜」
「そうそう」
自分から付き合うとか言い出したけど、ちょっと莉紅と別れたくなってきた。
誰かに求められたい。そんな承認欲求が高まる。
そんな悩みに困っている時だ。家に帰ったらお母さんが休みだったようで、久々に家にいるのを見た。
見た時には、もう既に幹雄さんがお母さんに拳を振り上げていた。
俺はすぐさまお母さんの前へ走り込んだ。
「やめてください!」
両手を広げて大男からお母さんを守る。
どうして、今まで俺を殴ってたじゃないか。なんでお母さんを!?
「どけよ、葵唯ぃ!」
「どうしてこんな事……!」
「そいつが生意気だからだよ、結局女は殴らなきゃ言う事聞かねぇんだよ」
「俺ならどれだけ殴っても構いません。だから、もうお母さんを殴らないで下さい!!」
「ふんっ」
幹雄さんはいつものように俺の身体の露出しないところを殴ったり蹴ったりして、その後お母さんを犯していた。
さすがにそれは止められなかった。お母さんが嫌がってなかったから。
今まで俺からお母さんに話しかける事は用がない時以外なかったんだけど、今回は幹雄さんがいない時に話した。
「お母さん、もう別れた方がいい。あんな男……」
「なんの文句があるのよ!? あの人がいるから生活出来てるのよ、感謝しなさいよ! 殴られるくらい、我慢なさい」
「でも、お母さんの生活結婚前と後で変わってないじゃん。またお母さんを殴るかもしれないよ?」
「うるさいわね、優しそうな顔して私を騙そうとしてるんでしょ! そうはいかないんだから!」
「お母さん……」
もうそれ以上何も言えなかった。お母さんが良いなら俺が我慢するべきなんだ。
俺がいけないから。お父さんに似てる俺が。
それからは殴られると安心するようになった。
俺が殴られている内はお母さんは殴られない。お母さんを守れると思うと喜んで殴られた。
これは罰なんだ。お父さんに似た俺がずっとお母さんを苦しめてたから。
傷が増える毎に罪が洗われる気がした。
期末テスト前で皆勉強に集中し始めた頃だ。急に莉紅が俺の手を握って、真剣な顔で言ってきた。
「葵唯、今日帰り僕の家に来て」
「なんで?」
「話がある」
「どこでもいいじゃん。なんでお前の家なんか」
「僕んちに来い。わかった?」
有無を言わせない莉紅の強引さに、俺は頷いてしまった。
学校帰りに莉紅の家に連れて行かれた。
莉紅の部屋は、引きこもりになった莉紅に付き合おうって言った日以来だ。
「さて、どうしてやろうかね」
莉紅はニコニコしながら俺の手をギュッと握った。莉紅は意外と腕の力が強い。
振りほどけなくてじっとしていると、ゆっくりとベッドの上に寝かされた。
「な、何?」
「隠してるものを見せてもらおうじゃん?」
莉紅は俺の服を掴んで、バッと捲りあげた。
手で押さえる間もなく、露わになる痣だらけの身体。痣が治ってもすぐにその上から痣が増えるから、俺の身体はいろんな色をしている。
莉紅は俺の身体を転がして背中の痣も確認した。
「なにこれ。相手はお父さん?」
「ち、違う。これは俺が……」
「自分で? 無理あるでしょ」
「言わないで。気付かなかった事にしてよ」
「はぁ? バカ言うな。ずっとおかしいと思ってたよ。でも最近は別の方向におかしくなってんなって思って、心配してみりゃ気付かなかったふりしろって? 無理に決まってるだろ!」
「やめてくれよ!」
俺は叫んだ。心配してくれてる莉紅に対して、迷惑だと思った。
「好きでやってんだよ、俺が我慢すればお母さんを救えるんだよっ!
お母さんを救ってくれる男がいないなら俺が、俺が守るんだ! だから……!」
「はぁ……話にならねぇ。今からお前ん家行くぞ」
「えっ!?」
莉紅は俺の手を掴んですぐに家から出た。莉紅の握力は強くて振り解けない。
強制的に自宅へと連れて行かれる。
こんな強引な奴だったっけ? 俺の知らない莉紅がそこにいた。
家に帰ると、こんな時に限ってお母さんも一緒にいた。幹雄さんも一緒で、莉紅が有り得ないくらいの怒り顔で二人を睨んだ。
「なんだてめぇ!」
自分の予定外の事が起こると、絶対に喧嘩を売るのが幹雄という男だ。立ち上がって莉紅に拳を向け、思い切り顔を殴った。
「莉紅っ!!」
「お前、何他人連れてきてんだ? ああ!?」
すぐに幹雄さんは俺の胸ぐらを掴んで床に突き飛ばす。近くにあったバッドを持って、俺に振り下ろした。
幹雄さんは暴力でねじ伏せ、言う事を聞かせようとしているんだ。バットで大怪我をしないように痛みを与えて精神を削りにきている。
「うあっ!」
痛みに身体を丸めた。背中を何度も殴られる。卑怯だ、道具を使うなんて。
お母さんは何もせずに背中を向けている。それでいい、お母さんが無事ならそれで。
莉紅には後で謝ろう。手当もしてあげて。あ、そうだ口封じもしないと。
視界の端で莉紅はゆっくりと立ち上がっている。
何もしないでくれ、お願いだから……。
莉紅は助走をつけて、思い切り幹雄さんに体当たりした。幹雄さんは少し吹っ飛んで、バットが手から離れた。
莉紅はすかさずバットを手に取り、幹雄さんの身体に思い切り振り下ろした。
身体に向けて、何度も、何度も。
幹雄さんは抵抗も出来ずに両手で頭を守って身体を丸めている。さっきまでの俺みたいに。
「お前がっ、葵唯にしてきた事はっ、こういう事だ!! 痛いか? 痛いだろ! 葵唯の方がお前の一万倍痛かったし、一万倍辛い思いしてたんだ。
何か言う事あるだろ、おい!」
莉紅はバットを何度も振り下ろした。その度に響く鈍い音に、恐ろしくなる。
暴力は恐怖だ。莉紅が怖かった。
「ごめ、ごめんなさい……ひぃっ」
幹雄さんが謝っても、莉紅はバットを振り下ろすのをやめない。
お母さんも莉紅を見て怯えるだけで何も出来ない。
俺は莉紅を羽交い締めにして止めた。
「莉紅やめてくれよっ!! 死んじゃう! 死んじゃうよぉっ!!」
泣きながら止めた。この時、暴力が恐怖になったんだ。
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