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番外編~和秋の母~
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※和秋のお母さん視点です。
この頃、高校生になった和秋がすっかり反抗期を迎えて、つまらない日々が続いていた。
夫は和秋が小さい時に亡くなってしまって、私には和秋しかいない。あまり相手にされなくなって寂しい日々。
春になって、急に金髪に染めてきて私が「そんな髪にしたら、学校で浮くわよ」って言ってるのに「うるせーよ」って返されるし。
悪い友達と付き合ってるいるのか、服装の乱れが目に付く。何度注意しても、
「うっせーな、こうしてる方がダチと上手くやれんだよ!」
って、無視されてしまう。
反抗期は成長の証だから、犯罪を犯していない限り、多少は目を瞑ろうと思った。
和秋は帰ってくると部屋にこもりっぱなりで、用事がなければ部屋から出てこないし。
いつか学校から呼び出しでもされるのかってハラハラしていたわ。
五月に入ると、更に帰りが遅くなった。
私の仕事は看護師だから、夜勤とか入ってしまうと和秋が一人になってしまう。
まだ子供だから、私がいない時に何か悪さでもするんじゃないかって心配だ。
高校に入ってグレてしまったように見えた和秋だったけど、五月の終わり頃から少し表情は緩くなった。
帰りは遅いし、服装も乱れたままだし、何してるのか分からないけど、学校に行くのが楽しいみたい。
成績表とか悪くても良い。元気で学校通って卒業してくれれば多くは望まないわ。
和秋が夏休みに入ったある日の夜。
夜ご飯は私が仕事でなければ、向かい合って一緒に食べるようにしてる。
その時の方が和秋に色々話しやすいっていうのもあるけど。
和秋は料理が好きみたいで、美味しい料理を作ってくれる。料理人になりたいとか言い出すのかなぁ。
「カズ、お母さん明日休みで色々買いたいものがあるのよ。持ちきれるか分からないから手伝って欲しいんだけど」
こういう頼み事をすると、和秋は決まって嫌そうな顔をする。そうよね、私も子供の時は家の手伝いより友達と遊ぶ方が好きだった。
「明日は特に用事ないけど」
「じゃあ付き合ってくれるのね?」
「えー。遊びたに行きたいのに」
「たまには家のお手伝いよ。学生は暇なんだから」
「暇じゃねぇし」
和秋は食べ終わって、私の分の皿も片付けて洗い終えるとすぐに部屋に戻ってしまった。
久しぶりの息子との買い物っていうだけで、なんかワクワクする。
少しは荷物持ち頼んじゃおう。
翌日は普段あまり着ないワンピースを着て、おめかしをして外に出た。和秋は適当にTシャツとと七分のズボン。
「どこ行くの?」
「今セールの時期だから、安く買えるものを買うのよ」
「はぁ……」
「なんで溜息つくのよ」
そりゃあ生活に困窮しているわけじゃないけど、出来るだけ節約したい。和秋だって大学に進学するかもしれないし、この子の将来の為に貯めてるんだから。
「別に」
冷たい。
反抗期なんだものね。理解してあげなきゃ。
色々な店を回って、買い物を進めていく。和秋は私が服を試着している間ずっと近くで待ってくれた。
男の子って女性の買い物の時間が長いの嫌な人が多いものだけど、この子は慣れているのかしら?
はっ、まさかもう彼女とかいて、こういうお買い物に慣れてるとか?
帰りが遅いのもそういう事?
それなら親への反抗もちょっと頷けるかも……。
って思っていた時だった。
「和秋! 偶然だね〜」
和秋を呼ぶ声にビックリした。本人も驚いたようで、私には見せないパァっという笑顔を一瞬浮かべた。
すぐに普通の顔に戻ったけど。
子供の頃はあんな笑顔よく見せてくれたっけ。
和秋の友達は二人いた。キリッとした目付きの可愛い男の子と、真面目そうな体育会系の男の子。
和秋はすぐに二人の元へ近寄っていった。
「ビックリしたよ、二人でどこ行くの?」
「映画館。今ね、夏希のプレゼント買ったんだよ」
夏希っていうのは女の子かな?
どういう友達グループなんだろう、最近の和秋は全く分からない。
「うん? ナッキーって誕生日……」
「二十六日だよ」
「マジ!? やば、用意しなきゃ」
友達の前だと明るいのね。
私の知らない和秋がいる。親ってこういう寂しい思いを経ていくものなのかな。
「息子がいつもお世話になってます」
私は和秋の母親らしくお友達に頭を下げた。
いつも和秋と仲良くしてくれてありがとうねって気持ちを込めて。
「僕こそいつもお世話になってます」
可愛い方の男の子が笑顔で私に頭を下げた。体育会系の子も会釈程度に。
なんだろう。この可愛い男の子は、友達の親に向けるようなものとは違う目を私に向けている気がする。
それが分からないから一瞬だけど、彼を警戒してしまった。
考えすぎよ。普段から礼儀正しい子なのね。
「お母さんそういうのいいから。今日だって本当は莉紅と遊びたかったのに、お母さんがどうしても買い物付き合えって言うから」
「いいでしょ、折角私も休みだし。あなたも夏休みで暇なんだからお手伝いしなさいよ」
「あはは。和秋、昨日と言ってる事違うじゃん。明日は久々にお母さんとお出かけだから、バッグ以外の荷物は全部俺が持つんだって言ってたのに」
んっ?
「ちょっ、莉紅! それ言うなよ〜!」
「そうなの〜? 頼もしいわね」
驚きの気持ちで動揺していたけれど、それを隠すように明るい対応をした。
和秋はそれを私に知られたくなかったのか、顔を真っ赤にしている。
え、え、えー?
私が疎ましいんじゃないの?
「少しお話していくでしょ? 私先に行ってるわね」
「うん、そっち行く時電話するよ」
頭の中を整理したくて、最もらしい言い訳をしてその場から離れた。
えっ……ていう事は。今まで反抗してたのは全部照れ隠しだったとか?
そういえば、買ったもの全部持ってくれてる。両手を見るけど、私が持っているのはバッグだけだ。
友達と話を終えた和秋が顔を赤くしたまま私と合流した。照れ隠しか〜へーそうなんだ〜。
「ねぇ和秋。照れなくていいのよ、そういう優しい気持ちを素直に見せてくれた方が嬉しいから」
「……やっぱり、今まで嫌な思いしてた?」
不安そうな顔で私を見る和秋。あーもう全部許せちゃう。
「もちろんよ〜。お母さん心が傷ついてたわ〜」
「ごめん。もう嫌な態度取らないように、頑張る」
照れて赤くなってるんだから。夏で外暑いのにのぼせちゃうわ。帰ったら冷たいもの用意しなくちゃね。
それから和秋との関係は良好になった。
まだ隠されている事は多いけど、冷たい態度は取らなくなったから良しとしましょう。
その数日後だった。
夜勤明けで、私は家に帰る前に買い物でもしようとブラブラ歩いていると、見覚えのある顔が私の前にやってきた。
「和秋のお母さん、お久しぶりです!」
可愛い男の子の方だ。今日は一人みたいで、周りには誰もいない。
「あら、あなた和秋のお友達の……」
「永瀬莉紅っていいます」
「永瀬君ね」
偶然……?
「はい。また会えるなんて奇遇ですね」
「そうね」
「折角のご縁ですし、良かったらLINEの交換しませんか? 母子家庭と聞きました。もし和秋に何か困った事があればすぐに僕が連絡しますよ」
たかだか友達の親にそういう提案をする子がいるのね。今の子供はしっかりしているわ。
「そんな、申し訳ないわ。大丈夫よ」
「僕が一番和秋の近くにいますよ? 家では見せない和秋の事も教えます」
「た、例えば?」
「うーん。多分、和秋の事だからこれはお母さんには言ってないと思うんですよね。
高校後の進学の事、聞いてます?」
「何にも。あの子そういう事話してくれないのよ」
永瀬君は楽しそうな、嬉しそうな笑顔を私に向けた。
「和秋、お母さんの事尊敬してるから看護師になりたいんだそうですよ」
「嘘ぉ?」
「マジです」
「え、だって、料理人とか目指してるんじゃないの?」
「違いますよ。お母さん大好きで、お母さんに苦労かけたくないから、大変な料理くらいはやってるって言ってました。
勉強も頑張ってるんですよ。理系科目は学年上位ですし」
あー涙が出そう。恥ずかしいわ、息子の友達の前で泣くなんて。
「あ、あと。あんまり節約ばかりしてないで好きな物買って欲しいって。和秋、奨学金で大学進むからお金の心配はかけたくないとも言ってました」
「本当……素直じゃない子ね」
「そんな和秋、僕は好きですよ。素直じゃないけど、心の中じゃいつも大事な人の事考えてくれてる」
永瀬君は和秋の理解者なのね。そういう子が近くにいてくれると安心だわ。
それからLINEの交換をして、たまに連絡を取り合うようになった。
にしても、こんなに和秋の事を考えてくれるなんて、珍しい子がいたものだわ。
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