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「亮雅さんっ……おはようございます」
まさか亮雅さんが接客してくれるとは思っていなかった。
朝から宴会の仕事が忙しいと聞いていたが、サプライズにもほどがある。
「俺の声でも気づかないなんて、優斗の警戒心は野生並みだな」
「……す、すみません」
全くもって恥ずかしい。
「パパがオムライスつくった!」
「ばーか、俺じゃない。ちゃんと残さず食えよ〜」
「くえよぉ」
「……」
ハイタッチ、と出した陸の手を亮雅さんがつかむ。
応えがあって嬉しいのだろう。
陸はキャッキャいいながら足をバタつかせる。
「どうだった? 入学式は」
「先生も好印象でしたし……校舎も綺麗でした。陸が楽しそうだったんで、よかったです」
「そうか。ならいい、金はこっちでやるから食ったらそのまま帰っていいぞ」
「え、あ、はい」
いやいや、"はい"じゃないだろ。
陸の入学式に出たからいい気になっていたが、亮雅さんとまだ結婚したわけじゃない。
式だけは日本で挙げようか、という話も出ているもののまだ"夫婦"じゃない。
いくらなんでも頼りすぎだろう。
「ゆしゃん、にんじん食べたい」
「ん? 食べていいよ」
「やたぁ! にんじんっ」
やっぱりそうだ。
俺は亮雅さんの経済力に甘えている。
将来的なことを考えるとそれではマズくないだろうか。
…………マズいよな、普通に。
「ごちさまっ」
「ごちそうさまでした」
綺麗に完食した皿をテーブルにそろえ、レストランを後にした。
家に帰ったら絶対話し合おう。
男として、あわよくば父親として俺もなにかしたい欲が最近増えてきた。
それは主に、陸が小学生になったことが原因で。
「ゆしゃ!」
「わっ、なに?」
「うへへ〜、よんだだけぇ」
「……ああ、そう」
お前は浅木か。
インテリジェンスホテル丸之内には新入社員が20人ほど入社した。
新卒から中途まで年齢はさまざまだが、経理課に配属された6人のうち直属の後輩となったのは新卒の1人だ。
「あ、椎名先輩。おつかれさまです」
「名前、もう覚えたんだ」
えっと……名前なんだっけ。
思い出せない。
後輩なのは間違いないが、名前が出てこない。
「指導役の先輩と聞いたので、すぐ覚えました。その、椎名先輩はご結婚されてるんですか?」
「え? あ、いや……」
陸の丸い瞳が後輩を見つめる。
警戒しているというより、初めて見るものに対して疑念を抱いているようだ。
学校に行くことが楽しみすぎて気づかなかったのだろう。
「この子は、上司の息子だよ」
「ああ! そういうことですか。指輪をされてなかったので、ちょっと気になって」
「……」
たしかにそうだな……指輪、か。
「オレ、仕事がんばります! ぜひご指導よろしくお願いしますっ」
「ああ、頑張れ。俺もまだ2年目だけど」
結局、名前は思い出せない。
この名前と顔が一致しないくせをいい加減に直した方がいいかもしれない。
以前は興味がないからと覚える気もなかった。
だが、今でもその考えを貫くわけにはいかない。
「ゆしゃんのてて、つめたい」
「寒いよな。今日は少し」
「陸があっためる!」
手をにぎって顔をすり寄せてきた陸に、思わず頬が緩んでしまう。
可愛い……バカみたいに可愛い。
「陸はどこか行きたいところあるか?」
「んー、こうえん!」
「いつもの?」
「うん、お砂あそびっ」
「そうしようか。じゃあ今日は俺、帰るから。明日からよろしくな」
「はい! おつかれさまですっ」
仕方ない、名前は明日確認しよう。
陸の手をとって職場を出ると、またいつもの公園に足を運んだ。
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