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「ばしゃあ!」
陸の飛ばした砂ぼこりがフワッと舞う。
遊具の斜面に腰かけた俺は、陸からもらったパンプキンの絵をぼんやりと眺めていた。
目が大きい……ドーナツみたいだ。
「よう、優斗」
「っ」
突然声をかけられることに慣れない。
肩が跳ねて顔を上げると、何ヶ月ぶりかの克彦が立っていた。
「……克彦、久しぶり。彼女は一緒じゃないんだな」
「金魚のフンじゃねえんだ。四六時中いるわけないだろ? それよりあのガキ、小学生になったのな」
「ああ。克彦に会いたがってたぞ」
「…………俺はガキが好きじゃない」
「嬉しいくせに」
「うっせえ、生意気だぞ」
頭を小突かれ軽くにらんだ。
以前はこんな会話もろくにできなかったと思うと、少し気持ちがおだやかになる。
「あぁ! かしゃんだ!」
「うげっ……」
ようやく気づいた陸が小さな足で駆けてきて、逃げる体勢をとっている克彦に飛びついた。
「おいコラ、離れろ」
「かしゃん! あそびきたのっ」
「アホ、ただの散歩だ! くっつくなっ」
「ゆしゃんとおなじカオぉ」
ケラケラ笑う陸のあどけなさに吹き出しかけた。
「陸ー、全然似てないから」
「はぁ? そこをお前が否定すんな」
「いたっ」
「たたくのダメぇ! いたいの!」
「ゔ……」
腕をつかまれ自分よりずっと小さな陸に叱られた克彦は珍しく苦い顔をした。
物怖じせず口をとがらせる勇者のような陸。
それがどこか面白くて、思わず笑ってしまった。
「ふははっ、陸に怒られるって……」
「笑うんじゃねえ、犯すぞ」
「今の克彦は……そんなに怖くない」
「いったな? 泣かしてやる」
「子どもの前でやめろよ」
なにも分かっていない陸は俺たちの間に入ると、克彦に「べー」と舌を出して挑発した。
「こんのガキ……」
「ゆしゃんは陸のーっ。かしゃん、あげないもん」
「いらねぇよ、バァーカっ」
「大人げないぞ、克彦……」
そういえば、亮雅さんは夕方に帰ってくるんだっけか。
夕飯の支度をしないとな。
「ぶぁぁかっ」
「"バ"だよ、"バ"! ぶぁ、じゃねえ」
「ばかばかっ」
「んだとコラ」
「悪い、克彦。これからスーパーに寄らなきゃいけないんだ」
仲がいいらしい克彦と陸の間に入って止める。
あからさまに不満げな顔を向けてくる実兄になんと言えばいいのか。
「……尻軽ビッチ」
「! は、ハァっ!? なんでだよっ」
「チッ、お前はガキの頃に俺にいった言葉も忘れてんだろ」
「なに……?」
「いわねえ。おい陸、お前は優斗の下僕だろ?」
なに言ってんだ、こいつ。
陸は「げぼく?」と首を傾げていて、背後から殴りたくなった。
「下僕なら優斗を守るのが仕事だ。泣かすやつは男じゃねえ」
「まもる! ゆしゃん、まもるの!」
「よーし。んじゃあ帰るわ」
「あ、あぁ……気をつけて帰れよ」
足を止めてふり返った克彦に「お前に言われたくねえ」と捨て台詞を吐かれた。
まるで素直じゃない。
面倒くさいやつだ……俺もだけど。
「陸、あんまり気にしなくていいからな?」
「ボク、かしゃんからまもった。げぼく」
あいつ、死刑だ。
意味も分かっていない陸が周りに下僕ですと言いふらすのはさすがにマズい。
「ゆしゃん。きょうは、おばあちゃんとこ行きたい」
「おばあちゃん? 小夜さんのところか」
「ランドセルみせてっていってたの! おとまりするっ」
「そっか、分かった。亮雅さんに伝えとくよ」
少しずつ言葉も流暢になってきている陸に、ほんの少し感じる寂しさ。
いつかこの手が離れてしまうこともあるのだろう。
幸せを知ると、同時にその先の寂しさも知る。
大人にならないとな……
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