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❖心機一転
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髪をなでられていると、いつの間にか俺は眠っていた。
目が覚めたのは太陽がまぶしい朝で、隣に亮雅さんはいなかった。
リビングに降りてカーテンを開ける。
慣れていないまぶたが反射で閉じる。
「ああ、夜だろ。俺も優斗も行くぞ」
通話中の亮雅さんがすでに私服へ着替えている事実に唖然とした。
今日の出勤は昼からでまだ朝の6時なのに、機敏さで金がとれそうだ。
「よう。眠そうな顔してんな」
「おはようございます……どこに行くんですか?」
「婆さんのところだよ。今夜、新入社員の歓迎会だろ。陸をつれて行くわけにいかねえから、今日も預かってもらう」
「……それじゃあ、俺も」
「いや、優斗はいい。昼まで空いてんだから休んでろ」
亮雅さんのことだから、優しさでそういったのだろう。
だが、胸の辺りがモヤモヤしてやるせない。
「でも……亮雅さんの方が疲れてるんじゃないですか?」
「気にすんなっていっただろ。まだ足りなかったか」
「っ……! ち、違います」
腰に触れられてドキッとした。
愉快げに笑う顔が俺の情欲をそそる。
「はやく……行ってください」
「え〜? 急に冷たいのな。ここ、寝ぐせ」
「……本、取ってきます」
「また源氏物語か?」
「ええ、そうです。読み終わってないんで」
寝室へ上がろうとしていた手をつかまれ、額に軽くキスをされる。
「知り合い以外開けんなよ、鍵」
「……はい」
上着を羽織って出ていく亮雅さんの背中に、ほんの少しもどかしさを覚えた。
亮雅さんは束縛するタイプではない。
こっそり外出をしても無事に帰ればなにも言わないし、むしろもっと遊びに行けというくらいだ。
だが、米田の一件から過度な外出は避けてくれといわれている。
俺が順応できる人間なら話は違うだろう。
本人は口にしないが、なにか大事が起こらないか心配しているようだった。
「…………源氏物語、じゃないんだけど」
浅木にオススメされて最近読み始めた推理小説。
それは偶然にも同性愛者が主人公で、致している描写までしっかりある。
もちろん異世界の設定ではないため、ことごとく好きな男にフラれ続ける主人公だが、本人は諦めることを知らない。
通っていたゲイ向け風俗もやめ、ただ1人の男のために刑事として優秀な業績を収める。
その努力が報われたのか、好きな男の心情が徐々に変わり始めていた。
どんどん続きが気になって、読む手が止まらない。
男を好きな男。
これほど絶望的に聞こえるのは、世間体の目があるせいだ。
もしも亮雅さんと籍を入れられる法律だったなら、日本から出ようとは思わないかもしれない。
やっぱり俺は、ここが好きだ。
小説を3分の2まで読み終えた頃、インターホンがなり肩が跳ねた。
箱入り息子でもないのに誰かの訪問が地味に怖い。
昔からこんなんだから、克彦にバカにされていたんだろう。
「あ」
玄関先のモニターに映った人物を見た俺は、なんの疑いもなく鍵をあけていた。
「お、椎ちゃんじゃねえか」
「谷口さん、おはようございます」
今日は出勤日ではないらしく、いつものオールバックではない。
前髪を下ろしている谷口さんと亮雅さんは新鮮味があって一瞬誰か分からなくなる。
「1人で留守番なんて、松本は正気か?」
「小夜さんのところに行ったんです。出勤まで時間があるので」
インテリジェンスホテルで予約受付のマネージャー兼営業を担当している谷口さんは、亮雅さんと中学時代からの付き合いだ。
強面な容姿でよく怖がられるらしいが、そんな印象もないほど冗談をよくいう。
「あいつに借りていたもんを返したかったが……それは夜にしよう。……なんだ? マッツンもとうとう気が狂ったか」
「……いえ、亮雅さんが買ったものを陸が並べてるんです。日当たりがいいからって」
全面ガラス張りの窓の1面には木製の小棚が吊り下げられている。
そこに陸がぬいぐるみを並べていた。
出会った頃は5匹ほどだったのが、今では10匹にもなる。
これが脱衣場にもいるのだから面白い話だ。
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