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「あいつの気が狂ってんのは今に始まったことじゃねえがな。ははっ」
「……優しい、ですよね。異常に」
そういうつもりでいってないのか、谷口さんは目を丸くした。
「優しいか?」
「優しいです、ムカつくくらい」
「おう、椎ちゃんにそう思われてんなら問題ねえな。オレはあいつにイジメられてんじゃないか心配だったからよ」
「……人をイジメられるような男じゃないです、たぶん」
どれだけ亮雅さん自身がひどくしようと思っても、言動に優しさがにじみ出る。
その優しさに浮かれている俺がいるから、よく分かる。
「うーわ……攫いてえ」
「え」
「オレは嫁と結婚してなかったら、間違いなく椎ちゃんを攫ってたよ。バックが怖えけど」
「それ問題発言ですよね? 色々と」
「しゃあねえ。男の性だ」
「いや……すいません、よく分かりません」
ハハハっ、と楽しげに笑う谷口さんが亮雅さんと重なって見える。
親友は似てくると聞いたことがある。
本当に似ている気が……
「コーヒー、ブラックでいいですか?」
「ああ、サンキュ。そのカーディガン、マッツンのだろ」
「!」
「お、当たった」
朝は寒いからとたまに借りている黒のカーディガンは、俺には少しサイズが大きい。
まさか気づかれるとは思っていなくて、赤面する顔をキッチンの死角に隠す。
「くそ……こんな可愛い嫁を持ちやがって、あんにゃろう」
「さ、寒いっていったら……貸してくれただけです。別に、それ以外なにも」
「椎ちゃんは思考がピュアすぎんだって。あの野郎に下心がないはずないだろ?」
「下心ってなんですか……ただ着てるだけですよ?」
「愛してやまない家内がてめえの服を着てるってだけで男は興奮すんだよ。まだまだ若いなァ」
「っ……」
ニヤリと挑発的な視線を向けられて手元が狂う。
亮雅さんがそんなふうに考えていると思うだけで、心臓が大きく波打った。
「どうぞ」
「ぶふっ……そんな照れんなよ」
「照れてません。谷口さんはノンケですよね? ……どうして、亮雅さんを止めなかったんですか」
「ん?」
「俺との関係です。陸がいるから……本当は男じゃない方がよかったと」
悲観的になっているのではなく、単に気になっていた。
谷口さんが亮雅さんを大切な親友だと思っていることも知っているからこそだ。
「オレはやめとけって言ったぜ? 会社ん中でも椎ちゃんを狙ってるやつは多いしな」
「そう、だったんですか」
「ああ。最初は育児のストレスで頭がバグっただけだと思っていたからな。でもまぁ、あいつが本気ならオレはなにも言わねえよ」
「…………」
「どうした? なにか問題があるのか」
話すべきなんだろうか。
今まで人に相談してこなかったから、相談の仕方がよく分からない。
「陸に……話したくて。俺のことを」
「ほう」
「でも、まだ小学生だしいっても分からないじゃないですか。だからといって曖昧にしておくのは、陸を傷つけることになると思うんです……」
俺と亮雅さんは付き合っていて、いずれ形だけは父親となる。
そうなったときのためにも。
「ゲイってのはオレにもよく分かんねえんだけどよォ、椎ちゃんが思ってるより坊は強いぞ」
「……え?」
「あいつはたぶん、好きになったら男でも女でも関係ないってタイプだ。中学生にでもなってみろ、周りから男同士が悪いといわれようと"なにが悪いんだ?"って顔するだろうぜ」
「……」
「それに、ガキのために親が我慢するってのもオレは好きじゃねえ。虐待してるわけじゃないんだから、どんな状況でも愛情込めて育ててやりゃいいんだよ。したら陸も勝手にやりたいこと見つけて成長していくさ」
考えすぎだ、と頭をなでられる。
誰かのために無理はしなくていい。
そう言われることが、俺の心を軽くしてくれる。
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