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「それではー、新入社員の活躍を願って乾杯といきましょう」
時刻は午後6時半。
支配人代理、歓迎会幹事の加藤人事課長が乾杯の音頭を唱える。
新入社員15人を含む計40人が居酒屋の個室に集まった。
礼儀作法に厳しいのは経理課の矢崎課長くらいで、割と自由に散らばっている。
俺は入口付近の席に座りその隣には桜田と、残念ながらあまり挨拶を交わしたことのない先輩が座っていた。
「先輩、なにか頼みますか? タッチパネル式なんて現代的ですよね」
「うん、ありがとう。桜田は?」
「オレはじゃあ、これで」
桜田がほほ肉のサイコロステーキとから揚げを押すと、右横に数とメニューが表示される。
画期的なアイテムだな……
こんなジジくさい反応をする若社員はこの中で俺だけかもしれない。
「へえー、椎名先輩はサーモンが好きなんですね」
「特別でもないけどな」
サーモンのカルパッチョ。
色合いがよくて気になっただけだ。
チラ、と上座に視線を向けると亮雅さんが谷口さんと談笑している姿が見える。
近いようで遠いこの距離感に、少しだけ複雑な気持ちを感じた。
俺の上司だもんな……2人は。
仕方ないか。
「生、飲まないんですね」
「あんまり好きじゃないんだ。というか、先輩の詮索ばっかりするなよ」
「いて。あはは、すいません」
久しぶりに口にしたチューハイはほとんどジュースと変わらないが、少量でも体のほてりを覚えた。
「椎名先輩、なにか欲しくなったら教えてください。オレがすぐ注文しますから」
「ふ、ありがとな」
ここまで従順になにかをしてもらうのも、あながち悪くはない。
亮雅さんだと変に気を使ってしまうがそうでないとなれば少し安心感もある。
「椎名ーっ、チーズドリア! 一緒に食わねえ!?」
「うわっ、ビックリした。なんだ、浅木か……」
「なんだってヒド! 見てみて、やわらかチーズドリアめっちゃ旨そうじゃねっ?」
向かいから身を乗り出す浅木の肩を押して「落ちつけ」と制する。
チーズドリアのなにがそんなに珍しいんだ。
「なー、食おうよぉ。おれと椎名の仲じゃん〜」
「意味深にいうな、バカ。頼めばいいだろ?」
「やった! 椎名大好きっ!」
「うるさい、一々テンション上げるなよ」
陸がそのまま大きくなっただけのような浅木。
22歳児といっても過言じゃない。
若干、面倒くさいと感じるときもあるが、浅木にその態度をとってもまるで効かなかった。
「浅木先輩と椎名先輩、長い付き合いなんですかー?」
「うん。おれと椎名、小学校からの幼なッ痛だ!」
「去年会社で知り合ったんだよ。なぁ?」
「いたい……イタイ、遺体……」
つよく蹴りすぎた。
「でもSな椎名も実は好き……」
「それは本気でキモイからやめてくれ……ほら、ご飯きたぞ」
いい友人というよりただの変態じゃないか。
背筋に寒気を感じたが、チューハイを流し込んで誤魔化した。
「よォ、ボウズ共。楽しんでるか〜?」
「オゥグッ」
背後から浅木に乗りかかる谷口さんが生ビールを片手に笑う。
亮雅さんは女性社員に囲まれ支配人と盛り上がっている。
谷口さんには悪いが、亮雅さんがこっちに来てくれないかとソワソワした。
「谷口マネージャーっ、前髪下ろしてる姿もかっこいいです……!」
「おうおう、知ってる。桜田は見る目があるねえ」
見た目もさながら、ヤクザにいたら絶対怖くて近づけないタイプだ。
「重いっ、重いです。マネージャー!」
「浅木ぃ、オマエはたしか半年ほど陸上やってたんだろ? 見かけによらず男だなっ」
「だぁっ! 折れる! 陸上部にチョー可愛い子がいたんですよっ、それこそ椎名みたいな顔です!」
ようやく解放され、谷口さんをにらむ浅木に笑いが込み上げてきた。
「おい椎名っ、笑うな。なんで顔隠すんだよ、ぜーったい笑ってるだろ!」
「いや……悪い、谷口さんに組み敷かれてるのが、ちょっと面白かった……っ」
「サイテーだ、椎名は悪魔の子だぁ!」
陸と亮雅さんを見ているようだ。
緩んだ口許が治まらない。
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