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「あー悔しい! ゲス椎名でも嫌いになれない自分が悔しいっ」
「ゲスっていうな」
「ゲスじゃんっ、椎名は主任と一緒だぁ!」
なにを1人で盛り上がっているんだ……
運ばれてきた料理を細々と食べながら、広い個室を見渡す。
去年の歓迎会では誰ともまともな会話をせず、ただただ時間がすぎるのを待っていた。
それが今では、この空間が心地いいとさえ思う。
周りの人達が俺を、環境を変えてくれた。
できれば転職や異動はしたくない。
そう思うほどこの職場が好きだ。
「____先輩、大丈夫ですか?」
肩に触れられてビクッと反応する。
1時間近くが経って酒の酔いが回ってきたのか、視界がおぼつかない。
「ん、大丈夫……水」
「ありますよ、ここに。先輩、体調が悪かったらいってください」
頭がふわふわしている。
慣れない酒を飲みすぎたか。
「本当に大丈夫ですか、先輩」
誰かの肩に寄りかかりたくなって、あやうく桜田の肩へ触れかけた。
……あー、やばい。
まだ3杯しか飲んでないのに。
谷口さんと浅木はすでに席を立っているのに、亮雅さんがどこにいるか分からない。
すがりたい……亮雅さんに。
「んー……桜田、亮雅さんどこ……?」
「え、亮……」
「あっつい……あぁ、たこが来たぁ……」
小皿に小さなタコが3匹いる。
どれも5本の足で立っていて、陸が作っていたものにそっくりだ。
「かわいい、食べたくない……」
「…………ふ、先輩……可愛い」
腰に手が添えられた気がしたが、酔いのせいで心地よく思えてしまう。
だが、次の瞬間その手に力が入り俺の腰から離れていった。
「!」
「おい桜田、支配人が呼んでるぞ。席、開けてくれ」
「っ、あ、はい。分かりました!」
聞き覚えのある声。誰だっけ……
隣に座った誰かがボヤけて見えた。
テーブルに突っ伏したまま視線を動かすが、ぐにゃりと歪んでいる。
「へんな顔……」
「誰が変な顔だぁ? なにを飲んだんだ、優斗」
「見て~、たこが立ってる……」
「…………はぁ、もっとはやく来るべきだった」
頭をクシャクシャとなでられ、もっとそうして欲しいと思う。
人になでられるのは好きだ。
気持ちいいし、なんだか落ちつく。
「なんか食えたか?」
「とり食べました、あれ……食べたっけ。なに食べた?」
「俺に聞くな。優斗、俺が誰か分かってるか」
「んー……分からない」
「亮雅だよ。お前の大好きな」
視界が徐々に鮮明になってくると、亮雅さんの顔が見えてくる。
ようやく会えた気がして嬉しい。
重い上体を起こして亮雅さんの肩に顔を埋めた。
「全然、会えなかったぁ……」
「悪かった。というかお前、酔いすぎだ。俺はいいけど今はちょっと離れろよ」
亮雅さんに引きはがされ、妙な寂しさを覚える。
「亮雅さんは俺のこと、好きじゃ……ないんですか」
「っ、あのな……周りがうるさいから、まだよかったものの。そういうの、この席では危ないぞ? ほら水飲め」
「あ、たこ……刺した。食べちゃうんですか、?」
「……超やりづれえ。口開けてみ、うまいから。二次会は行かずに帰るぞ」
開けた口のなかにタコが入ってくる。
タコの割にやわらかい。
少し噛むと簡単に崩れてしまった。
「おいし」
「…………やべえな、はやく帰りてえ」
「? もう食べれないんですか」
「いや、そんなことはないけどな。それより、あんまそういう顔するな。特にこの場所で」
「うへー……僕はもう食べれませんー」
「聞こえてねーのな……はぁ」
亮雅さんのひざに置かれた手をとって軽いマッサージをした。
亮雅さんが好きという事実だけが胸のうちで悶々とする。
幸せだ。亮雅さんが隣にいるなんて。
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