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❖偽り -side 松本亮雅-
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俺はいま、選択を迫られている。
「かわいー、たこ……ふふふ」
「…………」
新入社員歓迎会。
1年の始まりである大イベントで、優斗が完全に酔ってしまった。
元々、酒につよい男じゃない。
車の運転がある俺は飲酒をしなかったが、上司の談笑や愚痴に付き合いすぎた。
早く隣にきてやるべきだった。
「あんま隙見せんなっていったろ」
「すき……好き、?」
「…………おい、どんだけ俺のこと好きなんだ」
「へへ……手が熱いです。照れてるー」
「少し落ちつけ」
俺もな。
俺の手をマッサージし始めた優斗のおかしな言動に理性が崩壊しかけている。
ここは酒場だ。
そして歓迎会という名の祝宴だ。
もちろんキスはできないし、襲うなんて話にならない。
途中抜けして連れて帰るにしても、まだ午後7時だった。
新入社員との会話もまだ満足のいくほどではない。
さすがに早すぎる。
「あぁぁ……陸にご飯、あげなきゃ」
「バーカ、陸はいま婆さん家だろ。水、ちゃんと飲めよ」
「ん…………、頭いたい……」
「はいはい。ツラいならご奉仕しなくていいから」
他の社員は個々で盛り上がっていて、優斗との関係について言及されることはなさそうだ。
だが、油断はできない。
桜田が優斗の腰に手を回したのは、間違いなく単なる介抱が目的ではない。
こうして本人が無自覚で他人を煽るのだから、彼氏という立場の人間は苦労する。
普段とのギャップというか、可愛すぎんだよな……
たこのウインナーに愛着が湧いてるくらいだ。
たぶん慣れない酒に相当やられてる。
……動画でもとるか。
いや、やめておこう。この場では。
「お、なんだマッツーン。もう食わねえのかぁ?」
「食ってるよ、一応はな」
酔っていてもさほど変わらない谷口が向かいの席に座った。
優斗はぼんやりした顔で谷口を見つめ、なにも分からなかったと言わんばかりに箸をとる。
「椎ちゃん酔ってんのか?」
「ああ……俺の話もまるで届いてない」
「ハハハッ! てっきりオレに惚れてんのかと思ったぜ」
調子に乗る谷口のスネを蹴り上げ、肩肘をついてにらんだ。
「いってッ! オマエは椎ちゃんか!」
「あ? こいつに手出したらお前でも殺すぞ」
「出すわけねーだろっ、こっちも大事な嫁とムスメがいんだよ」
「チッ……どいつもこいつも狙いやがって」
当の本人は内容も理解していないようで、たこのウインナーを箸でつついて遊んでいる。
やっぱりこういう場では優斗に飲ませられないな。
犯罪級に可愛い。
「だーから言っただろ、敵が多いって。あっちの席で"そういう"話になったときも、椎ちゃんが気になるって新人の女がいたぞ」
「……はぁ。そりゃまぁ、こいつは同期ともあんま関わろうとしないからもっと交友関係広げろっつったけどな。誰もモテまくれとは……」
「イイじゃねえか、優越感にも浸れんだろ。その子を支配してんのは現にマッツンだからな?」
「……」
優越感、ねえ。
別にそんなものが欲しくて優斗と付き合ってるわけじゃない。
自分の身がどんな危険にさらされても守りたい。
そんな日本男児の代表セリフを吐きたくなるほどの男なんだ。
「マッツンはアレだ……オレの親父が一番嫌いなタイプだな」
「そりゃあどうも」
「親父は元がヤクザだから、計画的で情に厚いやつは嫌いなんだ。もろお前みたいな」
情に厚い、というより欲がつよいだけだ。
「んなの、羨ましいだけだろ」
「はは! かもな。タバコくらい椎ちゃんでも許してくれんだろ」
「吸わねえよ。クソがつくほどマズいんだって」
「そりゃあ違いねえ」
肩に寄りかかって眠り始めた優斗の手を、テーブル下でこっそり握った。
1人で留守番させたのを「気にしてない」と言っていた優斗だが、飲みの席でたったの1時間俺に会えないことが惜しかったのかと思うと、ますます愛おしい。
あぁ、はやく帰りてえ……
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