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車で十数分、泥酔している部下の介抱を口実に飲み会の席を立ち自宅へ戻ってきた。
優斗は半分夢のなかで、抱き上げてベッドまで運んだ。
谷口から聞いた話、優斗は今後のことで深く悩んでいたらしい。
それはいつものことだが重さが違う。
陸の成長がプレッシャーとなり、もっともっとと使命感がでてきたのだろう。
「もう、食べれない……ムリぃ」
バカなやつだな……
そっと頬をなでると、やわく手をにぎられた。
「亮雅さん……?」
「…………目、覚めたか」
「ここどこ、?」
「家だよ。お前、陸のことで悩んでんだってな?」
「……陸」
「なんで俺に話さないんだよ。そういうのはちゃんと話せっていったろ」
まだ朧気な優斗の視線はやっとのことで俺を捉える。
「陸……俺のこと、お父さんって……思うんですか」
「は?」
「俺は陸の……なんなんですか」
「……」
情緒不安定な優斗にも慣れていた。
だが、たまに見せる優斗の怒りに似た"なにか"は、いまだ俺の心を惑わせる。
憎しみでもなく妬みでもない。
この感情はなんなんだろうと、考えても分からない。
「どういうことだ」
「だって……俺は"ここ"にいたいのに。それじゃあ陸と家族には、なれないじゃないですかっ……」
「っ」
男同士。
それがどんな不憫な生活を強いられるものか、優斗は痛いほど知っている。
家族にも敬遠され、世間で除け者にされている性事情は友人にもろくに話せない。
「優斗……」
俺が弥生と付き合っていた頃は、なにも言わなくても茶々を入れて歓迎してくる友人がたくさんいた。
だが、優斗の場合はちがう。
たとえ友人同士でも、『気味が悪い』だの『異常』だのと言われるリスクが高い。
その恐怖が常にある優斗にとって、小学校という新しい環境は戦場に出るようなものだろう。
「入学式の日、誰よりも若い俺を見て年齢を聞いてきた人がいるんです……その人は、俺が児童の兄だと思ってました」
「……」
「でも言えない……父親です、なんて。俺は陸の父親じゃないから……言え、なかった」
優斗はどうして、その類いの話を隠すのか。
俺には分からなかった。
信用ができないから、頼りにならないから、迷惑がかかるから。
そんなくだらない理由なら話してくれよと何度思い続けたか。
「……悪いな、優斗。俺は正直、裕福な家庭で育った人間だ」
「……」
「両親も祖父母もみんな自由人だが仲がいい。それにノンケだった、男が好きってだけでどれだけ生きづらい人生を強いられるのか……俺は知りもしない」
酔いのせいもあるだろう。
優斗がこんなにも素直なのは。
「だからな……籍を入れることの重要性も俺にはいまいち分からないんだ。世間からは迫害されるかもしれない、でも好きなもんは好きだ。それだけじゃあ、たぶん駄目なんだろうな……」
「…………っ」
「優斗は男が好きな自分を否定してるだろ……陸や俺に危害がおよぶと思ってる」
「実際……そうですよ。だから母だって、俺を毛嫌いしたんです……俺は、なんの利益も生まないから」
「だとしたら、なんで陸がお前といたがるんだ?」
「それはっ……ゲイとか、恋とか愛とか、知らないからじゃないですか……」
優斗はまだ分かっていない。
陸が俺に似ているのは、陽気さや自由さだけではないというのに。
「陸がなんで知的能力の障害とされなかったか分かるか?」
「……え?」
「俺も一時期気になってたけどな。あいつは生まれつき脳に問題があるんじゃない。脳の言語中枢ってとこに何らかの傷を受けてうまく話せないんだよ、頭で理解してても言葉がでてこねえ……ってやつだ」
「……」
「その原因は俺も以前まで知らなかった。だがな……どうやら弥生の虐待が元凶だったらしい」
「虐待……」
陸の言語は構音障害という、先天性ではなく心因性のゆがみだった。
個人差があるといえ、小学生にもなってあの話し方に違和感を覚える保護者も多いだろう。
「俺が許さないといったのはあいつの虐待と、それに気づけなかった俺自身にだ。優斗は不器用でも陸に向き合おうとしてくれただろ、それだけで十分……あいつは幸せだって顔するんだよ」
「っ……」
優斗は最後まで聞いて顔をゆがめると、布団のなかに潜ってしまった。
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