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陸の病気は治らないものじゃない。
「ゆしゃんっ、パプのかぞくかけた」
脳の一部、舌や声帯に司令を送る機能が損傷しているという説明は受けたが、正しい発声などのトレーニングをおこなえば長く通院せずとも改善できるようだ。
精神的なストレスを小さな体に与えてしまった弥生と俺の過ちが消えることはない。
「え? パンプキンに家族がいたのか」
「これ、イヌしゃん。こっちはアメしゃん」
「って……飴は食べものだろ?」
優斗の理屈ならパンプキンも食べものだ。
天然かよ。
「陸はたべものっ」
「陸を食べるのは亮雅さんくらいだって」
「よーし、腹減ったからお前らまとめて食うぞ〜」
「やだァ!」
「イッテ」
陸の頭突きが腹に命中する。
誇らしげにこちらを見上げて笑う陸。
あやうく吹き出しかけた。
こんな小さい体で俺を倒せるわけないだろ。
「うがぁぁ、死んだー」
「やったぁ! りょしゃ、たおした! つよいの!」
「…………ぷふっ、あはは。ほんと、なにやってるんですか」
「……」
俺はつくづく単純だ。
それも一生変わらないだろう。
この男がそばにいる限りは。
遊び疲れた陸が眠ってしまった頃、優斗は窓に寄りかかりぼんやりと空を眺めていた。
時々、気力をすべて失ったように何もせず、ただそこにいることがある。
その横顔は儚げで誰しもの目を惹くものだった。
「……ありがとう、ございます」
「は?」
「陸のこと……俺に話してくれたじゃないですか」
覚えていたのか。
居酒屋での一件はやはり覚えていないらしいが、陸の話はしっかり記憶に残っている。
「悪かった……俺はお前に隠し事してばかりだな」
「いえ、大丈夫です。亮雅さんはたぶん、気遣ってくれたんだろうなと思いました」
「そうじゃねえよ。俺はそんな優しくないだろ」
「たしかに」
「おい」
「…………嘘です。亮雅さんは優しすぎなんですよ、俺にも陸にも。だから倒れるんじゃないですか」
立ち上がった優斗が、ソファに腰かける俺の隣に控えめに座った。
「もっと自分に優しくしろと亮雅さんは俺にいいました。そのお言葉……そっくりお返しします」
「……なんだよ」
「自分に優しくないのは亮雅さんですよ。ツンデレなんですか?」
「どっちがだ。酒場で"俺のこと好きじゃないんですかぁ?"って目をうるつかせて聞いてきたの忘れてんだろ」
「はい?」
こいつはなにを言っているんだ、と優斗は目を見開かせる。
「酔ってたんですか」
「お前がな? すんげー可愛かったぞ、俺の手つかんで離さねえし。ほんとあれは、俺に拉致されてもおかしくねえ」
「…………」
なにも言わずにそっぽを向く優斗の反応には困った。
キモいだのうざいだの、どうして言ってこない。
気になった俺は肩をつかみ、「怒ってんのか?」と優斗をふり向かせた。
「!」
怒っているのかと思えば、優斗は顔を真っ赤に染めていた。
それも俺に見られたくなかったようで、まだ隠そうと試みる。
「っ……やめてください」
「なんっだよ、怒ってんのかと思った……」
「怒ってます。怒鳴り声をあげる寸前です」
「嘘つけ。こっち向けよ、優斗」
「嫌、です……離してくださっ、ンン」
強引に唇を奪う。
蕩けそうな体がゆるやかなカーブを描く。
腰は細く、男にしては柔らかい。
だが優斗はどちらかといえば筋肉質だ。
運動神経がいい方ではないのに腹筋は程よく割れている。
「ん、ふっ…………キス、はダメです」
「なんで」
「……」
「黙るなよ」
「もう、言わせないで、ください……っ」
肩に顔を埋めた優斗の可愛さに絶望する。
一生離してやれる気がしない。
そっと頭をなで、ため息をついた。
「可愛いんだよ、このやろう……」
「っ、亮雅さんだけです……俺は」
「分かってる」
俺以外に目移りさせるつもりもない。
あってたまるか。
「……ちょっくら花屋に寄ってくるよ、陸を見ててくれないか?」
「え、花屋ですか」
「そろそろ替えないとな、あれ。寝ててもいいぞ」
「……本、読んどきます」
「そんな面白いのか? 源氏物語。今度読ませてくれよ」
「亮雅さんはあんまり、共感しないですよ。たぶん」
なんだそれ。
よくは分からないが優斗のお気に入りらしい。
字だけの本なんて、俺には参考書だけで精一杯だ。
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