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❖対立関係
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「おはようございますっ、椎名先輩」
「…………お、はよう」
職場に着くまで、どう言い訳しようか考えていた。
亮雅さんが大丈夫だからと言ってくれていたが不安は消えなかった。
そしてこの笑顔だ。
余計に恐ろしい。
「昨日のニュース見ました?」
「え?」
席に腰かけ、こちらを見やる桜田は普通だった。
「ペットの犬が5年の時を経て飼い主の元に戻ってきたんですって」
「そう、なのか。凄いな……その犬」
「ですよね! オレもう感動しちゃって」
「……桜田は、動物好きなんだな」
「たしかに犬も好きですけど、オレはどちらかというと猫派ですね。かわいいじゃないですか」
あれ……もしかして、本当に気にしていない?
いや、そうだろう。
俺が自意識過剰になっていただけで桜田もさほど興味はないはずだ。
ホッと安堵した途端、桜田が突然イスを寄せてきた。
「先輩、そんな焦ってどうしたんですか?」
「焦ってないだろ、別に」
「え〜? 松本主任との関係、もしかして周りに言ってない感じですよね」
「!」
デスクに肩肘をついた桜田が煽るようにこちらを見やる。
その笑顔がなんとも誇らしげで屈辱感を覚えた。
「オレが周りに言いふらすかもって思いました?」
「当たり前、だ。ここの職場はホワイトだけど、上司には同性愛に否定的な人もいる……警戒くらいするよ」
「あはは、ですよね。でもオレは噂話とか興味ないので、誰にも言わないと誓いますよ」
「……本当かよ」
「もちろん。ただ……恐縮ながら言わせてください。主任とのお付き合いを歓迎はできません」
なんの躊躇いもなく言い放った桜田の態度にイヤな汗が溢れてくる。
覚悟はしていた。
男同士の恋愛を歓迎する人の方が少ないのではと思う。
「……いい、よ。ゲイって珍しいし歓迎しなくても」
「違うんです。ゲイが嫌とかそういう偏見じゃなくて、主任がムカつくっていうか……」
「は?」
「あ、いや、嘘です。羨ましいなって。……先輩、入社した当時オレのこと知りませんでしたよね?」
「知らないけど……」
「ですよね……オレがここを志望したのは、先輩にもう一度会いたかったからなんですけど」
「え……?」
桜田の一言で思考回路が止まる。
だが、その先を聞く前に桜田は席を立って行ってしまった。
もう一度……? 会いたかった?
「え、あれ…………どこで会った、っけ」
桜田は名前を覚えるのが早いのではなく、すでに俺を知っていたと?
「椎名、お前手空いてるか?」
「え? ああ、はい。空いてます」
宴会担当の先輩に声をかけられ、ヘルプを頼まれた。
朝早くから9階でおこなわれている100人の祝宴。
あまり上階の宴会場を使うことがなかったためにスタッフも混乱しているようだ。
「椎名はコーヒーとデザートを出してくれ。主任がメインの料理を運んでくれているから、奥の席から頼む」
「分かりました」
会場に着くとすでに大賑わいで、四方八方から声が聞こえてくる。
スタッフは6人、俺が加わって7人だ。
100人の会場ならこれくらいが妥当だろう。
どうやら桜田もヘルプに呼ばれていたようで、先輩から指示を受けながらサラダを運んでいた。
1年が経って、宴会の流れもようやく掴めてきたところだ。
コーヒーカップを盆に乗せ、最前列から順に並べていく。
亮雅さんの姿が見えると少し緊張してしまい、とっさに視線をよそへ向けた。
「後ろから失礼致します」
「おぉ、ありがとう」
最後の1つをテーブルに置いたとき、突然手を掴まれてビクッと反応した。
ふり返ると頭皮が輝く太り気味の男がこちらを凝視している。
「あんた、社員さんかい?」
「はい、さようですが……」
「えらく別嬪だなぁ。今日は1日ここの担当をしてくれるのか」
「え……いや、そういうわけでは……」
男の手が腕にふれ、さすがにマズいと手をつかむ。
「失礼ですが仕事中ですので……」
「仕事が終わったら良いのかい? こう見えてもオジサンは昔、女が途切れなくてねえ。滅多に惹かれることがなかったんだが、あんたは格別だ」
「ははは! 最上さん、ナンパ癖が出てますぜえ」
強い力で握られて離れやしない。
仕事中だって言ってんだろ、このハゲ野郎。
内心で毒づきながら愛想笑いをしたとき、尻に手が触れてゾクッと悪寒が走った。
「っ! 離し」
「お客様」
誰かが男の手をつかんだ。
それは亮雅さんではなく、桜田だった。
「業務の妨げになるのでご遠慮ください」
「なんっだよ、楽しく話していただけだろォ?」
ようやく男から解放され、桜田に礼を伝える。
だがバックヤードへ戻ったとき、肩に手を置かれて唖然とした。
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