アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
仕事を終え、玄関で亮雅さんが出てくるのを待っていた。
夕方にもなると2人で出ても違和感はない。
……たぶん。
だが、駐車場の入口付近で見覚えのあるランドセルが見えて焦った。
____あれ……?
「おもいでぇ、いぱーい。しょがくせー」
「え、陸……?」
「! ゆしゃん、おかりっ」
飛びついてきた陸がここにいる事に、心臓が破裂しかける。
は? こんな場所に1人で?
えっ……
「な、なにしてたんだ陸。学校終わったら小夜さんのところに帰るって教えただろう?」
「サヨちんとこいったよ」
「小夜さんは?」
「おうちいるの」
「……黙って出てきたのか?」
「ううん。やしゃんときた」
やしゃん?
「おう、椎ちゃん。おつか冷麺」
「…………おつか、冷麺……」
駐車場から歩いてきた谷口さん。
そういえば今日は休みだった。
一気に体の力が抜けていく。
「はぁぁ……なんだよ、もう……ビックリしたぁ。てっきり1人で待ってたのかと」
「過保護すぎんぞ〜、椎ちゃん。坊が迎えに行きたいっていうもんだから連れてきたんだ。恨むならオレを恨め」
「いえ、恨まないですけど……でもそうですね、ちょっと心配しすぎました」
これじゃあ陸のやりたいことも自由にさせてあげられないな。
もっと余裕をもっていたい。
「陸もうお外ひとりであるけるよっ、しょがくせいだもん」
「……ふ、そうだった」
あんまり抱っこしてと言わなくなったのも、成長のせいだろうか。
なんだか寂しいような……
「おててつなぐぅ、カイしゃんもいっしょね〜。ひゃははぁ」
「……」
やっぱり陸は陸だ。
安心した。
「ゆしゃんとカイしゃんが、おててつなぎました。なかよしですっ。おともだちー、にひひっ」
「松本はどうした?」
「まだ事務所です。支配人と話していて」
「あいつもバカだよなぁ。宴会無理やり入れっからそりゃ怒られるわ」
「え?」
解放した手で陸が遊んでいる。
俺もノッてしまい、怪獣の頭をつかんだり離したりして遊んでやった。
キャッキャと楽しそうだ。
「どうしても外せないって客がしつこく宴会場の予約をしにきたんだ。今日は支配人から会場の空白を作れといわれてたんだがな……どうも主催者がここでやりたかったらしい。あいつはそういうのに弱えからよ」
「……でも皆、楽しそうでした。現場のスタッフ」
「そりゃあな。マッツンのためなら何でもするってファンもいるくらいだ、デカい予約入れられたからって恨みやしないさ」
なんだろう……
上司にいうのは失礼かもしれないけど。
なんか可愛いな……亮雅さん。
「ほら陸坊、ポテチだ」
「ぽて! ちょーだいっ」
「全部やるよ」
「ポテトやたぁっ、ゆしゃんもあげる」
「え?」
袋から出した数枚のチップスを手に握らされる。
「どーぞぉ」と楽しそうな陸が随分と愛おしく見えた。
「おいしーね」
「はは、そっか」
まだ食べてないんだけどね。
陸の体を抱きしめて背をなでた。
辛いことだってたくさんあっただろうに、いつも俺や亮雅さんを笑わせようとしてくれる。
誰よりも優しい子だ。陸は。
「悪い、長くなった」
「りょしゃぁ!」
「うわ。谷口までなんでいんだよ、仲良しか」
「ハッハッハ。仲良しだよなぁ」
「なかよしだっ、おむかえ!」
そうか。
これを天使というのか。
わざわざランドセルを背負ったまま出てきたのも、陸の可愛いところだ。
丸之内の繁華街には現代的なアミューズメントストアが何軒かある。
昼間は賑やかな声が聞こえ、夜にはライトアップされて街を照らしている。
この道を歩いたのはもう何度目だろう。
「親父がこの辺りでラーメン屋を開きたいっていいだしてよぉ。マッツンなんとかしてくれ」
「いいじゃねえか、好きにさせてやれば」
「勘弁しろ。あのバカ、一度居酒屋出して破綻してんだぞ?」
こうして見てみると、2人は兄弟のようだ。
学生時代からの付き合いといえば確かに違和感はない。
少し、羨ましい。
「おトイレいきたい!」
「……」
まるでテーマパークに行きたいというテンション。
吹き出しそうになってなんとか口を噤むと、亮雅さんがこちらを振り返った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 231