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「そこのコンビニで借りるか?」
目の先にあるビルの2階にコンビニが併設されている。
よほど心配なのか、亮雅さんは「優斗を頼む」といって行ってしまった。
「……心配性」
「はは、それは椎ちゃんも一緒だろ」
「そう、ですね。たしかに」
「でもよ、あれくらいが普通だぞ。椎ちゃんの場合」
「? どういうことですか」
ガードレールに腰かける谷口さんがたばこを取り出した。
だが、俺と目が合うと内ポケットにしまう。
「吸っていいですよ、お気遣いなく」
「嫌いなんだろ」
「嫌い、ですけど」
「さすがによォ、オレも椎ちゃんの傷を抉ることはできねえや」
「…………え? 知ってる、んですか」
克彦とのこと。
ドクンと心臓が揺れた。
「いや、タバコ嫌いの理由はなんも知らん」
「なんですかそれ」
「自覚ねえかもだけど、スゲー嫌な顔してっからな」
「え、それはすいません」
思い出すたびに怖くなるが、克彦だけを責められるかと言われれば難しい。
あいつだって昔は誰よりも優しくて、俺にとってのオアシスだったんだ。
きっと兄という立場の克彦も、周囲の期待や勉強のプレッシャーでおかしくなっていたんだろう。
「……椎ちゃんには黙っとこうと思ってたんだがな」
「?」
「オレの親父、もうすぐ60になんだけど10年ほど前までヤクザやってたんだ」
「___へ?」
思わず絶句して谷口さんを見やった。
「ヤクザ……?」
「ああ、暴力団の幹部。ビックリだろ」
「そ、そうだったんですか」
「苦労したよ、本当。前の支配人にバレたときはヤクザの息子を働かせんのかって人事課長と揉めててよ……さすがに終わりだと思ったな」
「でもそれはっ……谷口さんに関係な」
言いかけて口を閉じた。
家族は家族だ。
社会では大概が家族環境で判断される。
俺がなにを言ったって同情にしかならない。
「まぁ結局、松本がオレの担当していた営業進捗のデータを支配人に提示しやがったおかげで今でも現役だ」
「助けられたってことですか」
「ああ、ちと強引だけどな。生い立ちや環境で判断すんなって支配人に向かっていったあいつを見た時は、正真正銘のバカだと思ったよ」
「……」
亮雅さんは、光樹さんを思う気持ちだって誰にも負けていない。
だからこそたくさんの人に愛されているのだろう。
俺だって、亮雅さんのような男になりたい。
「オレも椎ちゃんと同じでタバコってもんがクソほど嫌いなんだけどよ、オレの場合はこれが逆に手放せなくなった。嫌いな親からほど離れられないってあるだろ?」
「……」
以前の俺と同じだ。
人は思っているよりも感情に弱いし、難しい。
「おもしれえもんだな」
「でも俺は……谷口さんは優しいと思います。人として、かっこいいです」
「……」
「す、すいません。まともな日本語が思いつかなくて……」
「よし、今夜は家に忍び込んでマッツンを暗殺しよう」
「は?」
「やっぱな、あのヤローに椎ちゃんを独占されてんのは許せねえ。あいつは殺す。そんでもって国宝に」
……。
「大先輩ですけど、すいません…………馬鹿だろアンタ」
「ばぁあ!」
「!」
階段の陰から出てきた陸に肩が跳ねる。
してやったりと笑顔を浮かべ、トドメを刺しに突進してきた。
「痛たっ」
「むははぁ、ゆしゃんビクリしたー」
「なんだよ。前の仕返しか」
「うんっ」
「素直すぎ」
そんな顔されたら憎めないじゃないか。
「おう、マッツン。今ちょうどオマエを暗殺する計画を立てていたところだ」
「暗殺の意味ねえだろ、俺にいうなよ」
「ツッコミいれるのそこですか」
陸は人の手で遊ぶのが好きらしい。
亮雅さんの手をつかんでは離し、自分の頭の上に乗せたりしている。
はっきりいって心臓に悪い。
「優斗には手出すな」
「おめえは罪を知れ。椎ちゃんをモノにしてるってのはつまり、全世界の人間を敵に回すってことだ」
「上等だ。お前だろうが支配人だろうが敵対してやるよ」
「いい根性じゃねえかァ。覚悟してやがれ」
未来が不安だ。
とても。
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