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「____タバコ、亮雅さんは嫌いですか」
家についてすぐ、陸は怪獣のぬいぐるみを抱きしめて眠ってしまった。
よほどはしゃぎ疲れていたらしい。
寝室に寝かせて亮雅さんとテレビに向かっている。
「なんで?」
「いえ、なんとなく気になって」
トラウマを克服したい。
俺のなかで、なぜかその思いが湧き出てくる。
タバコを誰かが吸っていて、それが克彦と重なるのはひどく違和感だった。
タバコが怖いなどと社会人になって言えるはずがない。
「本当はタバコ吸う人ですよね? 亮雅さんも」
「なにをそんな気にしてんだ。俺はほとんど吸わねえっていったろ?」
「……本当に、そうなんですね」
「陸がタバコの煙に弱いってのもあるからな。随分と前から禁煙する方に慣れてきた」
横目に亮雅さんを盗み見る。
端正な顔立ちはテレビを見つめて動かない。
体感的に30代の大人の寛容さを感じていたが、亮雅さんはまだ27だ。
5月7日で28歳。
従業員が100人近くいるインテリジェンスホテルでも、年少に近い部類だった。
これで統括マネージャーを務めているのだから、嫉妬もされるだろう。
「…………変なお願い、していいですか」
「なんだ」
「タバコ……吸ってみてほしいです、ここで」
「は?」
「持ってます、よね」
ほとんどないが、時々吸っているのは知ってる。
苦い顔をした亮雅さんと目が合い、なんと言い訳しようか考えた。
「本当に変なお願いだな」
「タバコ吸ってるのって不謹慎ですけどかっこいい……じゃないですか」
「そういう趣味あったのか、お前」
「一度で、いいです。ちょっとだけ」
俺から頼むことは少ないためか、亮雅さんは渋々立ち上がりスーツの内ポケットからタバコを取り出した。
「……やっぱり持ってるんですね」
「いいだろ別に。喘息持ってねえのか?」
「いえ、ないです。煙に弱いだけで」
ソファに座り直すと、タバコを咥えてライターを構える。
……大して平気じゃないか、やっぱり。
少し嫌な気分がするだけだと思った。
だが、火がついてライターがテーブルに置かれると、ドクンと心臓の揺れを感じた。
「日に日にマズくなってやがる……」
「っ……」
遠目なら平気なはずだった。
銀に光るライターとタバコの煙に背筋が冷たくなっていく。
気のせい、だ。
過剰に気にするからこうなるだけで、もう少し見ていれば全然……
「優斗?」
「ぁ……い、や……見てな……」
亮雅さんの横顔が、以前の克彦と重なった。
まるで殺すような目で俺を見て、何本も何本も……
「おいっ」
「ッ!」
ハッとして亮雅さんを見ると心配げな目をしていた。
ふるえる手を握られ、腰も支えられている。
できなかった。
克彦のあの顔だけはどうしても怖い。
「……なさ、ごめんなさい……」
「…………兄貴か。お前やっぱり治ってないんだろ」
「っ、治し……ます。タバコくらい、怖くない」
「やめろ。克服しようと無理して治るはずないだろ? なんでそれを言わないんだよ」
缶にタバコを捨てた亮雅さんに抱きしめられ、泣きそうになってくる。
治せない。
怖がってばかりの自分は嫌なのに。
克彦自体が怖いんじゃない、過去のできごとが俺の心に張りついている。
「トラウマってもんは荒療治で改善されることもあるが……お前のそれはかなり深い傷ができてんだ。克服したいって気持ちで強引に自分を苦しめなくていい」
「でも、俺はっ……」
「大丈夫だ。誰も優斗を責めねえよ……本当に改善したいなら俺や周りの人間をもっと利用しろ」
「……亮雅、さん……っ」
「やっぱ可愛いな、優斗は。それを治したくて俺にわざわざ頼んできたのか?」
優しい声色が俺を包む。
苦しくて悔しいのに、腕のなかは心地いい。
「すみ、ません」
「ほんとすぐ謝るなぁ。そういう怖いことは考えなくていい、散々頑張ってんだから自分を許してやれよ」
「んっ……ふ、ぅ」
唇を奪われ、涙が頬をつたう。
優しく紡がれる言葉の1つ1つに泣いてしまう。
もっとキスしたい。触れたい。
亮雅さんのことを、俺がひとり占めしたい。
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