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❖訪問者
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「幸せ、です。俺は」
なんの慰めにもならないことは分かっていた。
それでも伝えたかった。自分の言葉で。
「亮雅さんに会えなかったら……一生知れなかったです。幸せも、つらさも」
「……」
「陸の幸せだって、亮雅さんには分からないじゃないですか。幸せじゃなかったらあんなふうに飛びついてこないですよ。俺だったら……好きじゃない人にあんなことしないです」
「ふ……」
「って、なんで笑うんですか……っ」
腹をかかえている亮雅さんに羞恥心が芽生える。
本心で言ったのに……!
「いや、悪い悪い。生意気だなぁと思ってよ」
「な……」
「いつも優斗にいってることを俺もいわれてんな。でも、陸が俺をアホみたいに好きなのは知ってるよ。イケメンだし優しいしな」
「……自分でいいますか、それ」
「はは。お前のその、ふてくされた顔が好きなんだよなぁ」
「っ!」
してやられた…………
恥ずかしすぎて目をそらす。
これだから、この男は……
「桜田には気をつけろよ、優斗」
「え? 桜田、ですか」
「あいつは優斗を狙ってんだろ。なるべく2人きりにしたくないが、仕事場ではそうもいかない。事務所から出るときは誰かをつけていけ」
「……は、はい」
狙ってる、というか……
会いたかったというのは、どういう意図なんだろうか。
なにも思い出せない。
つい最近まで他人に関心すら見せていなかったものだから、覚えているはずもないが。
「____よーっす、また来たで〜」
陸の入学式から2週間ほど経った頃。
今泉さんが訪ねてきた。
今日は陸も起きていて、今泉さんを見るなり俺の背後に隠れてしまう。
「なんや? チビちゃん、オレは怖いもんちゃうで」
「どう見たって怖いですよ……その眉と刺青、趣味なんですか」
「あっはは! 綺麗やろ? 咲はバラが好きでなぁ、気づいたら入れとったわ」
なんの遠慮もなく靴を脱ぐ今泉さんだが、理由を聞くとつよく言えなくなってしまった。
指から手の甲にかけて入れられたバラの画。
ただの不審者だと思っていたが、人を見かけだけで判断してはいけないものだ。
「陸、この人は怖くないよ。亮雅さんの友達だから」
「おともだち?」
「せやせや、オトモダチや。で、その亮雅はどこ行ったん?」
「ソファで寝てます。仕事、相当疲れたみたいで」
「つまらんのぉ。酒買うてきたっちゅーに」
リビングについてすぐ、今泉さんは提げていた袋をテーブルに置いた。
この慣れた感じからして、亮雅さんが結婚したときまで遊びに来ていたのだろう。
でもどうして、今になって会いに?
「あーあー、ほんまに寝とるやんけ。今朝電話したばっかやのに、けったいなヤツや」
「すみません、なにも聞いてなくて」
「かまへんよ。チビちゃん、名前なんやったっけ。海? 森?」
「陸です……」
「ああ、それや。陸、これやるわ」
差し出された卵型の何かに、陸が目をぱちぱちと瞬かせる。
初対面で渡されて簡単に受けとるほど警戒心の薄い子ではない。
「なんですか? それ」
「チョコエッグやで」
「チョコ! たべたい」
「うまいでえ。さっき、店でもらってな」
「……あの、ちょっと気になってたんですけど」
「なんや?」
初めて会ったときから少し気になっていた。
「高校の同級生ってことは……東京にいたんですよね。関西出身、ですか?」
「そうやで。中3でこっち来て、高校で亮雅と出会うたんや。あれからもう13年くらいやな」
「……方言、移ったりしないんですね」
周囲に関西人がいるといっても家族くらいだろう。
10年も東京にいたら方言を忘れてしまいそうだが。
「するわけないやん、関西好きやし。なんなら嫁がオレにつられて関西弁しゃべるようになっとったわ。なぁ? 陸」
「なっとたわ」
「なっとった、やで」
「なっとた!」
「ブフッ、言えてへんやん」
ふしぎな感じだ。
神奈川でも東京でも共通語の人か外国人しかほとんど出会わない。
関西弁なんて生で聞いたのは初めてかもしれない。
「優斗はどこが好きなんや? 亮雅の」
「えっ……ど、どこって」
「こいつ人使い荒いやろ。友人ら放ってどんどん上に行ってまうしな。ガキの頃はほんま嫌いやったわー」
「でも遊びに来てたんですよね。5年前までずっと」
「……嫌なとこ突かんといてくれ。自分タチ悪いで」
本当は亮雅さんが好きなんだろう。
なんだかんだ、いつも人から聞くのは亮雅さんの名前ばかりだ。
どれだけの人気者とこうして同棲しているのか考えるほど恐ろしい。
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