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弥生さんのこともあったが、今泉さんの対応からあまり害はないだろうと、付き合った経緯を簡単に話した。
陸は新幹線のオモチャで遊びながら話を聞いていたようだが、意味まで分かっていないらしい。
ちょくちょく俺や今泉さんのいった言葉を真似してくる。
「亮雅と似てへんな」
「え? そうですか、似てると思いますけど……」
「いや、似てへん。優斗の前で言うんもあれやけど、陸は弥生ちゃん似や」
「……」
たしかに陸の髪は地毛なのに鮮やかな茶色だ。
弥生さんもたしか茶髪だった。
瞳の大きさや女の子寄りの顔も、母親ゆずりなのは見てとれる。
「陸は覚えとんか?」
「あっ、いや……陸は知りません。顔も人柄も、覚えてないです」
とっさに今泉さんを制止した。
陸は弥生さんを怖がっている。
何度も対面しているからそれは明白だった。
本人の前で名前を出すのは気が引ける。
「そうか……まぁ、亮雅が元気そうやしなんも問題あらへん。……ん? それなんや」
手に持っていた袋を見られて言葉につまる。
「き、今日……兄の誕生日なんです。だから」
「ほぉ〜! プレゼントか! 仲がええんやなぁ」
「仲はよくない、ですけど」
俺は高校以来、一度も克彦に誕生日プレゼントを渡していない。
あんな仲だったのに飽きずに贈り物をくれた克彦に渡すのはかなり久しぶりだ。
「陸もあるよぉ、かしゃんプレゼント」
「なんや妬くなぁ。オレもプレゼントほしいわぁ」
「そうですか。ははは」
「はははぁ」
「芸達者なガキやな〜、気に入ったで。オレらのことは気にせんと行ってきたらええ」
「……」
克彦に会いに行けといいたいのだろう。
礼をいいかけて、ふと亮雅さんに視線が移る。
「なんやねん。自分、オレがバイやからって亮雅に手出すと思っとんか?」
「え! いや、まさかっ……そんなこと思ってません」
「心配せんでええわ。オレは友人に手出したことない、嫁やって出会ったんは見合いや。はよ行ってこい」
ひらひらと手で仰ぐ今泉さんに小さく会釈して、陸に行こうと手を伸ばす。
「すみません、それじゃあ……よろしくお願いします」
「ああ。楽しんでき〜」
「ずみしゃん、ばいばいっ」
なにを心配したんだろうか……俺は。
自分でもよく分からない。
克彦は以前住んでいたマンションを出て新しく家を借りている。
陸と手をつなぎ、丸之内の隣町の1軒を訪ねてやってきた。
「__あぁ、マジできた」
「行くっていっただろ」
3Kと広い間取りの部屋らしく、彼女と同棲する際に2人で選んだようだ。
今日は克彦が休みで、彼女は仕事に出ている。
「入れよ。飯くらいなら出せる」
「かしゃんっ、おうち! ひろーい」
「……お前はどこでもベラベラしゃべる口だな」
部屋にお邪魔してみれば、リビングとして使っている部屋もキッチンも綺麗だった。
まるで克彦が克彦じゃないみたいだ。
タバコはまだ吸っているらしいが、吸い殻の数が圧倒的に少ない。
「まくらぁ〜! わふっ」
「おいコラ、飛び込むなっ」
「あー……なんかごめん、克彦」
「きゃははぁ! かしゃん、もふもふっ」
「わぁーった! ちと落ちつけ!」
陸を抱き上げた克彦にほんの少し罪悪感を覚えて目をそらす。
子どもは素直だ。
克彦は陸にナメられているらしい。
「……んで、わざわざ何しにきたんだ? 誕生日だからって用事もなしにか?」
「たんじょび、たんじょびっ」
「いや、これを渡そうと……」
そっと隠していた袋を克彦に渡す。
いつも俺は高い腕時計やネクタイなんかをもらっていたから、探すのに苦労した。
「誕生日、おめでとう」
目を見ていうのは恥ずかしく、あえて視線を外す。
高校以来だ、こんなこと。
克彦は一瞬目を見開いたようだが、すぐに眉間にしわを寄せた。
「…………甘ぇな」
「え?」
「俺が優斗にしてきたこと、覚えてねえわけないだろ」
「そ、それは……」
「なーんでお前はそう、すぐ許すんだ。そんなんじゃ男に騙されんぞ」
なんだかムッとして克彦を見上げる。
「いい、だろ別にっ。克彦がしてきたことを許したわけじゃない、でも感謝もしてるんだ。だから……少しお返ししたっていいじゃないか」
「……はぁ。これだから性格のいいやつは嫌いなんだ、俺が悪かったよ」
「かしゃんプレゼントある、陸も。からあげとねぇ」
「は? から揚げってなんだよ」
から揚げチップスというのをデパートで見かけ陸が選んだ。
克彦を近所のおじさんとでも勘違いしているのか、少し面白かった。
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