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依存と肯定
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「____大丈夫か、椎ちゃん」
「谷口、さん……っ」
困惑した谷口さんに肩を抱かれ、男は愕然とする。
「な、なななんだアンタは!」
「どこの馬の骨か知らねえが……うちの部下に手出そうとはいい度胸だなァ?」
「だ、出してない!」
「3秒待ってやる。そのうちにどっかへ失せろ、いーち」
「ひいぃぃッ!!!!」
全速力で逃げていく男の背を見て絶句した。
どうして、俺はいつも。
「……場所変えよう。歩けるか?」
「はい」
谷口さんに連れられ個室のバーにきた。
あまり酒が飲めない俺への気遣いか車できたのか、谷口さんはリンゴジュースを注文した。
「椎ちゃんは? どれがいい」
「……同じのが、いいです」
「そうか。…………泣きたい気分なんだろ、いま」
「っ」
溢れだしそうになった涙をグッとこらえた。
ダメだ。俺が泣いたらダメ。
「どうしてムリするんだ。ほら、オレの胸に飛び込んでもいいぞ」
「……俺には、泣く資格ないです」
「なんで」
「だ、って……」
「素直になる魔法知ってるぞ、オレは」
「っ」
谷口さんの胸へと抱き寄せられ、ポンポンと頭をなでられた。
その途端に我慢していたものが一気に溢れだし、視界が崩れていく。
「ほらなー。椎ちゃんの涙腺がぶっ壊れたァ」
「な、でッ……うぐ、俺……っ」
「へいへい、オレの服グシャグシャに濡らしたって怒らねえから。遠慮すんな」
我慢しようとするほど溢れてくる。
胸が苦しくて爪でかけば、谷口さんに手首をつかまれた。
「離し、て……」
「元凶は松本か? 松本だろ、絶対」
「違っ……」
「あいつはなんて? オレがしばき回してやるから言ってみな」
「……亮雅さんは、悪くないですっ」
谷口さんはため息をつくと、髪をくしゃくしゃになでてきた。
「死ぬほど可愛くてやってらんねえ」
「……」
「椎ちゃん、そんな優しくなくていい。泣くほどツラいってのは、自分じゃどうしようもないくらい追いつめられてるってことだ。松本を殺す気で怒ってもいいんだよ」
「本当に……」
「本音いってみな? 大丈夫だって、オレしか聞いてない」
「…………ムカつき、ます」
「ハハハッ! そりゃあそうだろうな」
なんだろう。
自分ばかり責めていたものが、本当にムカついてきた。
「それでいいんだよ。んで、なに言われたんだ?」
「家を出ろって……」
「はぁ? それは殺すしかねえな」
「違う、んです」
言いたくなかったことでも出てしまった。
それは偽りない事実だ。
「……亮雅さんに、仕事ばかりで陸を俺に任せきりだって言ってしまったから」
「それで怒ったのか?」
「そんなに光樹さんが好きなら、いっそ支配人にでもなればいいって……」
「……」
普通怒るだろ、そんなこと言ったら。
「それはキレるな……あいつなら」
「最低、です。俺は本当に……」
「なんつうか、椎ちゃんも切羽詰まりすぎだ。あいつが本気で仕事してんのはたしかにあいつの都合だがな、家族を養いたいってのが一番だ」
「……はい」
「それを否定されちゃ、さすがのマッツンでも傷つくだろうよ」
「もう……戻れません」
自分をいくら責めたって、言ってしまったんだ。
失った時間は取り返せない。
俺がしてしまった過ちが原因で、関係が終わった。
「おいおい、それは早すぎだ。喧嘩くらいどのカップルでもするだろ? 事情を話してしっかり謝れば、あいつは椎ちゃんを否定したりしねえよ」
「で、も……」
本気の喧嘩なんてしたことがない。
一度こじれてしまえば戻れない関係になるのだと思っていた。
「反省してんだろ? なら、一度電話でもしてみな。諦めるにはまだまだ早すぎるぞ」
「……電話」
「そうだ。電話でダメなら直接会いに行けばいい。大事なのは椎ちゃんの思いをしっかり言うこと、オレからできる助言はそれくらいだな」
思えば亮雅さんはいつも陸や俺に優しさをくれた。
発作に怯えている俺を抱きしめて、大丈夫だと口ぐせのように。
谷口さんと別れてから亮雅さんの連絡先を開いた。
俺の手は震えたまま、押す押さないの選択に迫られる。
正直怖い。
克彦といたとき、喧嘩をすれば殺されるものだと思っていた。
だから自分が我慢すればいいのだと言った俺に、亮雅さんは「それは愛じゃない」と。
通話ボタンを押すと、いつものコールがなり心臓の鼓動を早めた。
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