アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
「ちっ……」
「お前いま舌打ちしただろ」
「え? まーさかぁ! 尊敬する松本主任に向かってそんな無礼なことできませんっ」
「だよなぁ? 新人の分際で、んな横柄な態度とったらどうなるか……分かってるよな」
亮雅さんが同僚に不快感を見せるのは珍しい。
相当仲が悪いのだろうとすぐ分かる。
「あははぁ、イヤだな〜。僕はまだ新入社員ですよ? なにをしていいのかまるで分からないでビクビクしてるウブなんです。上司万歳に決まってますって」
「その態度のどこがビクビクしてんだよ。なんでもいい、椎名から最低10mは離れろ」
「待ってください。オレ壁貫通します、外に浮いてます」
「知るか」
なんだか落ちつく。
どういう喧嘩なんだ、これ。
「椎名先輩、凄くいい匂いがするんで心地いいんですよ……鼻血でそう」
「ッ」
「……おい、お前表に出ろ。主任直々にしつけしてやる」
「主任じゃなくて先輩がいいです〜。指導係は先輩なんで」
「椎名に指1本でも触れてみろ、二度とその減らず口叩けねえようにしてやっからよ」
怒りを露わにする亮雅さんを止めようとしたとき、ちょうど課長に呼ばれて行ってしまった。
悪いやつではないが……
「その人を煽るクセどうにかしろ、桜田……」
「だってムカつくじゃないですか。目の前に先輩の彼氏がいるんですよ?」
「そ、そうだけど……主任は上司だろ? 偉い立場の人に喧嘩売るなんて自殺行為だって」
「媚びるの嫌いです」
「嫌いっていっても、仕事なんだから」
「先輩は仕事熱心ですね。松本主任じゃなかったらオレもこんな対抗心張ってないですよ。本当にオレが気に食わないなら課長や支配人にかけ合うことだってできるはずです」
「……」
それはたしかにそうだ。
亮雅さんは桜田をどうかしようと課長に訴えたりしないし、口で言うだけで手まで出しはしない。
どうやら桜田は、その優しさに甘えて子どものような対抗心を燃やしているようだ。
「桜田、実はちょっと亮雅さんのこと好きだろ」
「やめてください、気持ち悪いです。誰があんなナルシスト……」
罪な人だな……
益々、好きになった。
あの人のおかげで俺は日に日に単純な男になっていってる。
「____ここで待ってるか?」
勤務を終え、亮雅さんと学童施設の近くまできた。
足がすくんで動けない俺に声をかけてくれたが、首を横にふる。
「一緒に……行きます」
「……そうか」
俺の人生も亮雅さんや陸の人生も、誰かに批判されていいものじゃない。
ここで弱気になっていたら俺はまた自身を否定することになる。
そう感じた。
「あ、ゆしゃんだぁっ」
俺を見つけるなり、靴を履かず真っ先に駆けてきた陸が飛びついてくる。
「うわ、ちょっと……靴は履かないと」
「ゆしゃん、おかえりぃ! ただいまぁ」
「っ」
「こんばんは〜。陸くん、ずっと"会いたいなぁ"って言ってたから、嬉しかったんですね」
職員の女性が笑うと、目頭が熱くなった。
帰ってきたんだ……またここに。
「ゆしゃん、おむかえまってた」
前は泣きじゃくっていたのに、陸は満面の笑顔だった。
反対に俺が泣いてしまいそうだ。
少し背丈の伸びた陸を抱きしめて「ただいま」とつぶやく。
「ありがと……」
「へへへ〜、陸しゃん、もうひとりでもこわくないもん」
「強がるなよ」
「おとしゃんなるから、つよい子なの」
「……作文、かっこよかったよ。陸が一番」
「やったぁ〜。にひひ」
俺が否定したら駄目だ。
こんなにも頑張っている陸を、俺が応援しなくてどうする。
「きょうねえ、ゆーちゃんに陸のこと好きっていわれたの」
「えっ?!」
なんということもなく平然と言う陸に驚く。
「……なんて返したの?」
「ボクも好きって! ゆーちゃん、おともだちっ」
「…………」
やっぱり分かってなかったのか……
また友達ができたと喜んでいる陸だが、優子ちゃんからすれば勘違いしてしまう。
それは色々と危険だ。
陸に教えないと、でもどうやって……?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 231