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『____ここから先はゾンビの発生危険区域だ。心して行け、健闘を祈る』
よくできたアニメーションが終わると、足下の薄明かりがつけられる。
不気味に漂う霧のせいで前がよく見えない。
「はっはは! もう楽しいやんけっ」
「おばけっ、陸がたおすー!」
「足下気をつけろよ〜」
視界が悪いためか、まだ序盤だというのに息苦しい。
前を歩く亮雅さんの手をにぎりたい衝動と恥ずかしさによる抵抗で足元がおぼつかない。
微かなライトだけでようやく道筋が分かるほど真っ暗な空間に嫌な汗が流れだした。
「ギャアアァッ!!!!」
「!」
前方から聞こえた今泉さんの声。
でも姿が見えなくて、その場に立ち止まってしまった。
あれ……道が分かれてる。
全面ガラスで反射する道と真っ暗な道。
声は聞こえるのに、3人がどちらに進んだのか分からない。
「亮雅、さ……」
背後からガタッと音が聞こえて短い悲鳴をあげる。
こんな恥ずかしい姿は誰にも見せられない。
なのに、前へ進もうとしても足が動かない。
3人の声が聞こえなくなって絶望にうつむいたとき、腕を強く引かれて「ヒッ」と声が上擦った。
「いたいた、こんな暗いところで止まるなよ。怖いならそう言えよなぁ」
「っ……」
「亮雅ー、優斗おったかぁ?」
「ああ、今行く」
亮雅さんの腕に抱きしめられ、すいませんと言いかけて止められた。
「優斗、本当に無理だったらやめていい。1人で待つのが嫌なら俺も一緒に出てやるから」
優しすぎる亮雅さんの言葉には首をふった。
「……俺も、行きます」
「恐怖を克服したいってんならやめろよ? そういうの、こっちが心痛てえから」
「違い、ます。家族で……もっと遊びたいから」
「っ」
楽しい時間を共有したい。
そう言って目をそらす。
途端にため息をつく亮雅さんは、「可愛いやつ」とつぶやいて手をにぎってきた。
「!」
「どうせ今泉にもそんな見えねえんだ。ベッタリくっついて目つぶってろ」
「……ありがとう、ございます」
どこまでもかっこいい人だ。
こんなことをされて惚れない人がいるなら教えてほしい。
心臓の音が加速していく。
「ほーら、早く進めー」
「ギャッ! 急にさわんな! ビビるやろ!」
「陸もさわるっ」
「うわぁ! やめんかい!」
「ひゃははっ、ズミしゃんびっくり〜!」
亮雅さんに腰を抱かれている上、陸と今泉さんの声が聞こえると安心してくる。
申し訳ないくらいに。
「見てみろ優斗。すげーグロい虫がいんぞ」
「ッ! 嫌です、立ち止まらないでくださいっ! 早く進んでッ」
優しいと思ったのは初めだけで、亮雅さんはむしろ俺がビビるのを楽しんでいる。
さっきからゾンビが手を伸ばしてきてるとか人が這ってるとか、なんとか俺の目を開けさせようと仕向けてきてムカつく。
グロものは一切受け付けられないのに。
「あ、白アリだ」
「もうやめてくださいッ!」
「ただのアリだろ。怖いっつーよりキモイなこれは、触手まで動いてるし。うーわ、えっろ」
「も、いやだぁ……っ」
「大丈夫だって。俺がいんだろ?」
「安心できませんよ! 変なこと言ってくるのはあんたじゃないか……ッ」
こんなにもたくましく、こんなにも不安になるのは亮雅さんの才能ゆえかもしれない。
2人でくっついて出口をめざして十数分、ようやく近づいた光に肩の荷が降りた。
「はぁ〜……やっと、出口……」
「高いとこもダメで暗いとこもダメって、病弱な姫みたいだな」
「亮雅さんまで……俺を女扱い、するんですか。それともやっぱり女だった方が……」
「こーら、すぐそうやって悪い方向に考えるな。たしかに最初は優斗が女でもイケると思ったけどよ、やっぱり今のお前が一番可愛くていいよ」
出口を潜ったときにさりげなく額へキスされた。
ドクンと心臓がなったが、陸たちがもう外にいて表情には出せなかった。
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