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「ゆしゃん、せんべい食べてるっ」
ジェットコースターから帰ってきた陸に食べている途中の煎餅をかじられた。
自分から渡してきたのに、なんてやつだ。
「んふふー、おいひぃ」
「確信犯だろ……陸」
「これね、わさびなの」
たしかに、わさび醤油味って書いてあるしな。
「陸、ゆうしゃんは煎餅食われて怒ってるぞ」
「え」
「おこった! ゆしゃんおこるの、やだぁ」
頭突きするように飛びついてきて、「怒ってないって」と陸の頭をポンポンなでた。
まだ不安なのかチラチラ見上げてくるから、ふっと微笑んで見せる。
陸は分かりやすい。
俺が怒っていないと分かると、目を瞬かせてまた煎餅をかじった。
「あ……」
「ぎゃはは! 思春期やで、これはっ」
「ナメられてんな、優斗」
「……はぁ」
甘やかしすぎた。
それは分かっているが可愛いものは仕方がない。
今泉さんと足早に怪獣広場へと行ってしまった陸を横目に息をつく。
「子どもって分かんねえよなぁ。あれも陸なりの愛情表現なんだろうけどよ」
「……亮雅さんは、どんな人がタイプなんですか?」
「は?」
「し、知らないと長い付き合いも不便っていうか、その」
「ショートヘアは好きだな。あ、あとはよく笑う子」
自分で聞いておきながら、ズキっと胸が痛む気がした。
なんで傷つくんだ。
ただのタイプの話じゃないか。
「手先は器用なくせに性格は不器用でドジ踏んじゃう子とか、俺のタイプど真ん中だよ」
「……」
少女漫画の主人公みたいだな……
「それから、普段は生意気でもふとした時に健気な一面を見せられるとやべえ」
「……」
「書類作成を人の倍以上の速さでこなしてしまう頭のよさがあるのに、少しのことで傷つくし怯えた顔するし」
「……待って」
「十分いい能力持ってんのに自分自身を無能だと言っちゃうような心の弱い子、それが俺のタイプ」
「…………」
下げた顔を上げられなかった。
「おーい、早よう来んかい! 先に入ってまうで!」
「おうっ。ほら優斗、気が済んだだろ? 行くぞ」
「……っ」
「なーに突っ立ってんの。勝手に連れてくぞ〜」
手をにぎられて嗚咽がでる。
不自然なほど溢れてくる涙が亮雅さんの手を濡らした。
「……ばーか、泣くなよ」
幸せはどうしてこんなに苦しいんだろう。
どうしてこんなに、涙が止まらないんだろう。
「____え、まっ、上が……」
「落ちつけ、優斗。死にやしねえから」
陸の乗りたがっていたバイキング。
下で見ていたよりもずっと高く、腹部の支え1つでこの身を守れるのかと不安が募っていく。
徐々に背後へと引き上げられているため、視界の先は自分の体が地面から離れていく地獄絵図だった。
「たかい! こわぁいっ!」
「あははっ、高すぎやー!」
笑顔だった陸が今泉さんの肩に顔を隠した。
俺の手はまた震え始める。
死ぬ。落ちたら絶対死ぬ。
そう思ったのもつかの間、船は大きく降下し乗客が一斉に叫び声を上げる。
「ぎゃあぁぁぁ! はっは! なんやこれぇ!」
「やぁぁぁっ!! たかい! こわいぃ! おろしてっ!」
泣き叫ぶ陸の声も微かに聞こえるが、死への恐怖に耐えきれない俺は亮雅さんの腕にしがみついてしまう。
「ははは! たっけえなー」
「嫌、ですッ、本当に死ぬっ……死ぬからァ!」
「死なないって」
高所恐怖症なのを忘れていた。
涙が出そうなほど怖くて手が離せないでいる俺の手を亮雅さんがにぎり返してくる。
「目開けていろよ、優斗っ、そっちの方が慣れてくる」
「無理、です、無理無理ッ……!」
「あははっ、大丈夫だって〜」
乗り物でこんな危険を感じたのは初めてだ。
本能的に無理だと察し、この時間が早く終わればいいのにと切に願った。
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