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可愛い子 -side 松本亮雅-
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「優斗、なぁ。ゆーうと」
「……」
さっきから優斗は何度声をかけても顔を背けてしまう。
その理由は判明している。
バイキングだ。
4人で乗って隣にいた優斗は俺にビタっとくっついて一度も目を開けなかった。
相当怖かったのだろう。
高所恐怖症なのに陸のためにと乗るからこういうことになる。
どうしてこうも不器用なのか。
「優斗〜、優斗ちゃんって」
「触らないでくださいっ……」
「怖かったんだな」
「……べつに、怖くないです」
「言ってみな? 笑わないから」
頭をクシャっとして顔を上げさせると、耐えきれなかったらしい瞳をうるつかせる。
「怖かった?」
「…………皆、一緒に……死ぬかもって、思って……」
「あーあー、そうだなぁ。怖かったなー」
子どものように言った優斗を抱きしめてくしゃくしゃに髪をなでた。
耐えれば耐えるほど優斗はおかしくなる。
怯えた顔もすこぶる可愛いが、あまり無茶はさせられない。
銃の事件があってからというものの俺の死にはかなり敏感だ。
誰よりも優しく人の気持ちを考えられる優斗だからこそのトラウマだった。
「これは……谷口にキレられるなぁ」
「……すいません、今日ちょっと、我慢ができな……」
「我慢するからひどくなんの。優斗が泣き虫なのは今に始まったことじゃないだろう?」
「泣き虫じゃっ、ない。泣いてません」
「はいはい。今泉が陸と遊んでくれてっから、とことん甘えてろ」
テラスのベンチに腰かけて優斗の頭を肩に抱き寄せる。
克彦からすれば、こんなに可愛い弟がいて耐えられなかっただろう。
依存してしまうほど好きだったのではないかと思うと、少し気持ちが分かる。
「みそみそしるる〜」
「……なんですか、急に」
「俺、みそ汁好きなんだよな。愛してる、毎日食いてえ」
「たまに変なこといいますよね。薬やってるんですか」
「残念ながら、世話になったのは過労でぶっ倒れたときくらいだわ」
「ちゃんと寝てください……本当に」
落ち着いてきたのか、優斗の手が俺の手をにぎってきた。
それも控えめで、包むように強くにぎり返す。
「家帰ったら即ベッドだな。誕生日だし」
「あの、」
「なに」
「あ、いや……」
「隠すなって」
「…………ング」
「ん?」
「ペア……リング……とか、って嫌ですか」
ああ、尊死ってのはこういうことか。
優斗に対する愛と執着が俺の耳を老化させたのかと思った。
そっと指をなでる。
左の薬指、いや右でもいい。
「ペアリングか……最高じゃん」
「あっ、もちろん仕事では外して……」
「なんでだよ、外すな。なんか聞かれたら"趣味なんです"って言え」
「え」
「え、じゃねえ。俺と付き合ってるとは言い出せないだろ?」
「指輪が趣味って……厨二病じゃないですか」
「失礼だぞ。大富豪だってつけてる」
それでもまだ着けない理由を並べあげる優斗はスルーしてペアリングはいいなと思った。
男同士でも佐々木さんは着けている。
優斗が「趣味」といってもそれを真に受けるやつはたぶんいないだろう。
彼女か婚約者がいると察してくれればいい。
「かわいいなー、優斗は」
「疲れてるんですか」
「なぁ、一瞬でいい。タメでしゃべってくれ」
「な、なんでそんなこと……」
「たまにはいいだろ、同い年の気分を味わいたくてよ」
躊躇いに頬を赤らめるから、言葉を提示してやった。
「っ! い、言えないですよ」
「一瞬でいいから。つか、言わないなら置いて帰るぞ」
「ッ……最低です」
「知ってる。早くしろ」
可愛いお前が悪い。
「…………す……すす」
「……」
「好き……だよ」
「はい、さよなら」
「え、えぇっ、ちょっと……酷すぎです! ちゃんと言っ……ん」
人通りが少ないからといって、大胆に優斗の口を塞いだ。
力が抜けていく。
こんなにも好きで堪らない男が俺を好きでいる。
奇跡のようでリアルだった。
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