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「で、これにワームを付けたらOKだよ。椎名くんの釣り針にもこの練り餌をつけてごらん」
「は、はい」
ワームはよりリアルな動きをつけるための疑似魚の浮きだが、優斗はそれさえも面白いらしくジッと眺めている。
もはやどれが優斗の本性か分からない。
だが、可愛さに勝るものはないだろう。
「できました」
「器用だね、椎名くん」
「え、そんなことないです。全然」
「謙遜しすぎだ優斗、それじゃあ逆に失礼だぞ」
大きくかぶりを振る優斗の頭をなでた。
ネガティブが悪いとは思わないが、優斗の場合は本人に支障が出ている。
会社に出ると俺のように可愛い可愛い言ってくる男ばかりではないんだ。
「椎名くんの目指す基準はきっと高いんだろうね」
「いや、その。……自信がない、というだけで」
「大丈夫だよ。椎名くんはそのままが一番可愛いから」
「そ、そんなこと……」
照れている優斗は可愛いが、絹井さんの男前な創りには嫉妬もする。
これでいて頭がいいとなると敵も多そうだ。
「ここに座って投げてみようか。ちょっと手に触るよ」
「はい」
竿と針を持たせ、川の中心に向かって投げさせる。
初めての経験に楽しげな表情を浮かべる優斗が見れて、なんだかホッとした。
「慣れてるんですか。ああいう子」
岩の上に腰を落ち着けている俺の元へ絹井さんが戻ってくる。
「自己肯定感……いわゆる自信がある人っていうのは、自分と他人の能力を分けて考えるから謙遜しないんだよ。でも、自分のなかで到達したい目的があるから自信ある人は謙虚なんだ」
「……優斗は謙虚を超えちゃってんですよね」
「本人がそれで楽しいなら僕はなにも言えないけど、椎名くんのことは手を貸してあげたいと思う。愛情不足の経験は大人になっても顕著に見えてしまうからね」
「愛情不足……やっぱそうなんですね」
兄からの暴力はいつしか優斗にとっての存在価値になっていて、救いの手を怖がるほどに依存していた。
母の言葉を受け入れられずに苦しむ姿は、情に厚い人間であれば見ているだけで苦しいだろう。
「松本くんは優しいね。こんなことを言うのは失礼だけど、患者の不安定な精神には理解してあげられる人が少なくて」
「理解してあげてるとか、そういうのはないですよ。俺の方が優斗に救われてきましたから」
「ふふ。ベストパートナーなんだ、2人は」
「ええ、まぁそうですね。可愛いし」
靴を脱いで水面を弾く優斗の可愛さに惚れない俺がいたらどうかしている。
背後から抱きしめたい。
「さてと、僕たちも釣りに行こう。松本くんはミミズにするかい?」
「いやそれ、買ってたんすね……」
「あはは、もちろん。椎名くん嫌いそうだったからこっそりね」
気遣いのできる男だ。
感心しながら優斗の隣へドカッと腰かけると、あからさまに肩が跳ねる。
「驚きすぎ」
「柔軟剤の、匂いが」
「お前ほんとこれ好きな? ただの柔軟剤なのに」
「僕も隣に座らせて」
優斗を挟むように座った絹井さんは、気遣いなのかほんの少し俺たちと距離をとる。
俺が絹井さんの立場だったら正直ここに居づらくてログハウスへ逃げていそうだ。
「あの、ここって釣った魚食べられるんですよね? あそこのログハウスに行くんですか」
「そうそう。魚の力も意外とすごいから、浮きが沈み始めたら注意だよ」
「わかりました」
普段の気が強い顔はなく、好奇心に溢れている。
そしてパタパタ動かしている足が可愛らしさを引き立たせ、隣にいる俺は気が気じゃなかった。
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