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❖番外編❖不器用(克彦side)
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家に帰ると、優斗がなぜかイライラしていた。
俺の方が怒りに叫びたいほどなのに、優斗を抱きしめようとすると「勉強させてくれ」とはたかれた。
俺はついに我慢の限界で、床に押し倒すとギロっと睨んだ。
「ッ……なに、なんで怒って……」
「口答えすんなよ……お前は無能のくせに」
「っ」
「俺に逆らえると思うな」
ひどく怯えている。
違う。そんな顔をさせたいわけじゃない。
首筋に吸いつき、自分の苦しさを吐き出す。
優斗はバタバタと手足を動かすが、俺に敵うはずなかった。
「アッ……痛、んっ……克彦っ」
「ずっと耐えてきたんだよ……っ、なんで分からねえんだよッ、お前だけは……俺を、!」
初めて弟を抱いた。
優斗の顔は涙でぐしゃぐしゃになり、性交を終えると身を抱きしめて震えていた。
それを見てまた腹が立つ。
どうして優斗は俺を怖がるのか。
こんなにもほしいと思ってしまう自分は何なのか。
分からない。
でもほしい。
優斗を自分だけのものにしたい。
いつか消えると思っていた感情は、日を重ねるごとに拡大していった。
「克、彦……」
「あ゛?」
仕事で貯めた高い金をかけて、俺は背中に刺青を入れた。
最近ゲームセンターで知り合った男が入れていたものを真似しただけだ。
なのに優斗は、まがい物を見る目を向けてくる。
「なんで……そんな刺青。普通じゃない、じゃんか……仕事だって、見つかったら……」
「うるせえ! 黙ってろッ」
ビクッと大きく震えた優斗は、それ以上なにも言わなくなる。
当然だろう。
体中にできたアザは俺が殴ってできたのだから。
優斗がほしい。
だが優斗は俺を避けてくる。
ついには、就職した途端に21時を過ぎる頃まで帰ってこなくなった。
腹が立って男ができたのかと問い詰めても、周りは既婚者だからと言い訳する。
どうして俺を避けるんだ。
俺は優斗がほしいだけなのに。
昔みたいに抱きしめて、一緒に眠りたいのに。
__なのに、優斗はとうとう壊れた。
「俺が、何をしたって言うんだよ……! 兄だって思いたかった、のに……お前が……ッ」
1人で生きたいと言いだして、お前は兄じゃないと。
散々、我慢してきた。
親の嫌みも上司からの暴力も、でも無理だった。
「お前よ……さっきから、誰に向かって口利いてんだ、あぁ゛ッ!?」
「やめろッ!」
優斗を殴りそうになったとき、一番聞きたくない声に止められる。
「こいつを次殴ったらどうなるか、考えれば分かるよなぁ?」
挑発的な松本の目に憤怒し、これでもかと睨みつける。
「……やっぱ、そうじゃねえかッ。てめえが優斗をこの家から奪う気なんだろうが! 余計な事ばっか言いやがって!」
「腑抜けたこと言ってんじゃねえよッ!」
こいつは俺から優斗を奪っていこうとする。
許せない。
だが、怒鳴り声に足が止まり、自身に絶句した。
「実の兄に怯えて冷静でいられなくなるこいつを、一度でも理解しようとしたことがあったのか。椎名が笑顔1つ見せない理由を考えたことがあるのかって聞いてんだよ!」
「……」
「今のお前に、椎名の兄貴を名乗る資格はない。社会が許そうと俺が許さない。最愛の弟がここを出て行きたがる理由を、その無い頭でもういっぺん考えろッ、社会人だろうが」
優斗の肩を抱き、その場を去っていく男の言葉が脳内に残る。
笑顔1つ、見せない。
『俺、ずっと克彦といっしょがいいな。皆が俺に冷たくても、克彦といると楽しいから』
優斗は子どもの頃、俺にそう言った。
____俺が壊した。
母に貶され、近所から使えない人間だと罵られる優斗を見て見ぬふりした。
最低なのは誰でもなく俺だ。
俺が、あいつの笑顔を奪った。
「ッ……! ク、ソ……」
好きだった。
どうしようもなく恋焦がれていた。
ただそれだけなのに。
「ああぁあぁぁァッ……!!!!」
取り返しのつかないことをした。
俺は大切なはずの弟を。
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