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…………なんでだろう。
なんか、怒ってる?
ふとそう感じてもう一度目を向けるが、亮雅さんは誰かと通話をし始めていて特に変わらないトーンだ。
気のせいか……
頭で分かっていても気になってしまう。
普段が優しすぎるのかログハウスに行ってもどこか反応の鈍い亮雅さんに不安が募り、唇をかんだ。
「いやぁ〜、美人ってのは男女共通なんだねえ。てっきりお嬢さんかと思っていたよ。ハッハッハ」
「こら爺さん、お客だぞ」
あれからブラックバスやニジマスなど数匹の魚を釣り上げられ、管理人に捌いてもらうこととなった。
70代と聞いていたが手際よく調理していく姿はどこか若々しさがある。
慣れているのだろう。
ログハウスの室内には先客がいて、眼鏡をかけた20代くらいの女性がイスに腰かけていた。
先ほどからチラチラと亮雅さんを見ているようで気分があまりよくない。
「桜井さん、慣れてますね。腕利きの料理人だ」
「まーさか。爺さんは釣りバカなんだよ」
「はは、桜井家は食事に困らないみたいだよね」
再びこちらに視線を向けると、談笑している3人に近づいてくる女性。
警戒心から睨むような視線を送りハッとする。
まだ亮雅さん狙いとも限らない、だろ。
「まぁ、とっても美味しそうですね♡ あなたたちが釣ったの?」
「ええ、そうですよ」
返答したのは絹井さんだが、女の視線はまだ亮雅さんを向いていた。
「いいわね。魚釣りって男らしくて」
徐々に近くなる2人の距離に冷や汗が流れる。
どうして亮雅さんばかり見て……
「男らしい人は好きだわ」
「久本ちゃん、それはオレのことかぁ?」
「おじいさんじゃないわよ。まだ30なんだから、私。お孫さんの方はいいけど」
さりげなくベッタリとくっつく久本という女を見下ろした亮雅さんは、なにも言わずに押しのけて距離を置く。
ずっとネガティブで生きてきた俺に「まぁいっか」と思える頭はなく、女が桜井さんの元へ行ったのを見てこっそりと亮雅さんの指をにぎった。
「! どうした、優斗」
「……」
なんでもない、わけない。
微かににぎり返されると嬉しい反面さっきの態度が気になった。
突然避けるようなこと、どうしてされたんだろう。
「____ありがとうございました」
学童にいる陸を迎えに行くため、少し早めに切り上げて釣り場を後にした。
絹井さんとは駅で別れて亮雅さんと車に乗り込む。
2人きりの間に聞きたいことがあったが、学童へ向かう最中になにも話さないからこちらも言い出せなかった。
「楽しかったか、釣り」
「えっ……は、はい。楽しかった……です」
「そう、ならいい」
「……」
「陸は俺が迎えに行くから、先に風呂入ってろ。飯も俺が作る」
「夕飯くらいは、俺が作ります」
「いいって。ほら、家着いたから」
「あの」
怒ってますか。
そう聞こうとしてやめた。
亮雅さんと目が合うとひどく冷めたように感じたから。
喉が詰まったように言葉が出ず、俺は大人しく車から降りていた。
「……」
強くなりたい。
こんなふうに苦しくなるのはどうしても耐えられない。
ずっと幸せで、優しいあの笑顔が見たいなんて……きっと理想でしかないのだけど。
「ゆーしゃん!」
「おかえり、陸」
陸が帰ってきたのは20分ほど経った頃で、それもちょうど風呂を出たところだった。
なにか作っていようかと思って手をつけずにいたが、亮雅さんはすでに買いものを済ませていて安堵する。
「おててひろげてぇ」
「ん、なんで?」
「お花。ゆーちゃんがね、これいっぱいあるから、おウチでかざってねって!」
「……そういえば陸、優子ちゃんとは今どうしてるんだ?」
「どしてる?」
「好きっていわれたんだろ?」
そうなっていたらと内心で微笑ましく思う反面、誠くんのことも気にかかった。
あの子は男で、陸も。
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